地方自治から見た地方創生の2つの問題

井上 武史

 筆者が前回担当したコラムでも地方創生について述べたが、今月実施された統一地方選挙では地方創生のあり方が総じて重要な論点となったほか、投票の結果とともに投票率の低下や無投票当選なども大きく報道された。そこで、本コラムでは地方自治の観点から再び地方創生を取りあげる。

 すなわち、地方創生に向けた取り組みが国・地方ともに進められているなかで、地方に対する関心が高まりつつあると考えられるが、選挙を通じて逆の傾向があることも見出された。この点について、地方自治の見地から次のような2つの問題が提起されるのではないか。それは、地方創生と、地方自治の2つの側面である団体自治と住民自治の関係である。団体自治とは、国と地方自治体の関係を示すもので、国の関与が少なく地方自治体が主体性を発揮できる状況を表す。また、住民自治とは地方自治体と住民の関係を示すもので、住民の意思に沿った政策を地方自治体が実施する状況を表している。

 まず、団体自治と地方創生の関係を述べる。地方創生では地方の主体性が期待されており、その意味では団体自治に即した政策形成が尊重される形になっている。しかしながら、地方創生が求められる背景は地方圏から大都市圏への人口流出であり、その大きな要因は景気の動向である。日本創生会議の資料によると、景気が良い時期に人口流出が顕著になっている。また、総務省が4月17日に発表した2014年10月1日現在の人口推計でも東京圏への一極集中が進み、アベノミクスの効果と分析されている。したがって、ごく単純に考えれば、地方の人口流出を逆転させるためには景気の動向を転換することが必要になるのだが、それは地方の主体性で実現するものではない。日本の経済成長の構造を根本的に変革することが必要だとすれば、むしろ国の主体性が問われるだろう。団体自治とは地方自治体が主体性を発揮する状況であるが、それは地方に求められる役割についての話である。国がなすべきことは国が責任を果たさなければならないのであり、地方創生に関して地方の主体性が過剰に期待されたことが、かえって関心の低下を招いた、という見方ができるのではないだろうか。

 第2の問題は、住民自治と地方創生の関係である。選挙は地域住民の投票によって代表を決めるものであるから、最も強力な住民自治の制度である。したがって、選挙への関心が低下していることは、住民自治の後退として懸念材料となる。とりわけ、各地の選挙管理委員会が投票率の向上に向けて若年層向けの啓発活動を積極的に行ってきたが、十分な成果をあげることはできなかったようである。地方の問題に関心を持たない若年層が増えることは、住んでいる地方への愛着や参加の意思が乏しい状況を表しているだろう。だとすれば、彼らも大都市圏に流出する可能性がある。また、人口減少が地方消滅という衝撃的な警告となったことで地方創生が各地で進められているが、地方創生の成果として人口増加まで求めることは困難であろう。だとすれば、積極的な人口減少対策とともに、規模の縮小を前提とした財政運営の新たなビジョンを提示する必要があったのではないか。地方創生を住民自治の視点から捉えるならば、中心的なものが経済政策であるとしても、その基盤にあるのは地方の個性や住民の存在である。短期的な政策に加えて、地方創生に向けた中長期的な対策を住民とともに考え、実行していく体制づくりが必要ではないだろうか。選挙に対する関心の低下は、このことを示唆しているように思われる。

 筆者は地方創生の重要性を否定しているのではない。むしろ、きわめて優先度の高い政策であるからこそ、各地で斬新な地方創生策が数多く表れることを望んでいる。地方創生が求められる背景と経緯、国と地方の役割、行政と住民の役割を踏まえてこそ、実効性と持続性のある地方創生が実現すると考えられる。

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