ふるさと納税の返礼品に関する考察

江川 誠一

Pさんは大都市Aに住み年収3千万円を下らない。以前から故郷に貢献したいという思いがあり、平成27年度に初めてふるさと納税について調べてみた。その結果、一定金額以内であれば寄附額とほぼ同額の控除が受けられるため、実質負担額は2千円であること。自分の年収・家族構成ではこの一定金額が百万円余りであること。そして寄附先は故郷に限らず任意に選ぶことが可能で、各自治体から様々な返礼品が送られてくることを理解した。そして、ふるさと納税ポータルサイト「チョイス」(注1)にて「百万円以上の寄附に対する35万円相当の一眼レフカメラ」という返礼品を見つけ、写真が趣味のPさんは自分の故郷ではなくそのB市への寄附を選んだ。

平成28年度になりPさんは、「チョイス」を初めから趣味目線で物色すると、B市の返礼品は66万円相当のカメラに入れ替わっていた。2千円均一ショップに66万円の超お得な目玉商品を見つけた気分であり、前年度に心をよぎったA市や故郷に対する後ろめたさはもはや微塵もなかった。

さて、ふるさと納税は誰が得して誰が損するのだろう。年収700万円の給与所得者が3万円を寄附し、1万円相当の返礼品を得る例で考えてみる。

寄附者は「-寄附額+住民税控除+所得税控除+返礼品の価額(-3+2.24+0.56+1= +0.8万円)、寄附先では「寄附額--返礼品の価額--事務コスト(+3-1-0.3= +1.7万円)」(注2)がそれぞれ得する分である。一方で寄附者の居住地の損得は「-住民税控除額+地方交付税増額(-2.24 +1.68 = -0.56万円)」、国の損得は「-所得税控除額-地方交付税増額(-0.56-1.68= -2.24万円)」となり、それぞれ住民と国民の負担になる。ここで「地方交付税増額」が生じるのは、交付団体の場合、基準財政収入減少分の75%が交付税で補填されるためである。

ところで、返礼品は寄附の見返りではなく一時所得に該当するため、それを含むその年の一時所得が 50万円を超えた場合、課税関係が生じ申告の必要がある(注3)。返礼品と切り離されることで寄附となり控除の正当性を担保するのである。しかしながら現実には不可分のものとして運用する自治体、そして利用する納税者が多くなっている。この運用状況が生じる限り、自治体側は返礼品競争、納税者側はお得な返礼品探しを、故郷関係とは違うところで続けていくことが合理的である。それらをしない自治体や納税者が、機敏な自治体や納税者に血税を合法的に吸い取られることに等しいのだ。しかも高額所得者に有利に働くため、所得の再分配機能の低下をも招く。

故郷とのつながりを感じさせる品や、故郷のまちづくりへの関与等で工夫をこらしている自治体も少なくないが、お値打ち返礼品を据えた自治体が、ふるさと納税額のトップに並ぶのが現実。何らかの歯止めが必要であろう。

注1:http://www.furusato-tax.jp/
注2:事務コストは仮定。寄附先以外でも生じるがここでは省略
注3:国税庁「ふるさと寄附金を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係」

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