社会的割引率

江川 誠一

大規模プロジェクトの費用便益分析(便益Benefit/費用Cost=B/C)は、当該事業の可否を判断するにあたって、大変重要なポイントである。鉄道建設においては、総費用Cと開業後50年間合計の総便益Bを算出するケースが多い。そして、基本的にB/C≧1を満たさない限り、その事業は前に進めない。

ここで問題となるのが、「将来生じる便益や費用を現在の価値でどう評価するか」である。例えば、今年得られる10万円と10年後に得られる10万円を足して、総便益20万円とはならないのである。一般的に、年4%の割合で将来価値を現在価値に割り引く手法がよく用いられている。この年4%を社会的割引率という。その結果、「10年後の10万円」は、「現在の約6.8万円」に換算され、総便益は約16.8万円となる。「明日の百より今日の五十」という諺は、極端ではあるが社会的割引率を単純化したものと言える。

B/Cの上下に、この社会的割引率がかなり効いてくる。ただし、Cのうち大きな割合を占める建設費は、比較的近い将来に支出されるものであり、Bと比べて割り引きの影響は小さい。それに対してBは常に建設費の後に生じ、50年後の10万円は現在の約1.4万円になってしまう。つまりは、1つの事業についての2つの具体案を比較する場合、完成時期が極めて決定的な要素となる。まさに「タイムイズマネー」の世界である。さらに人口減少社会においては、完成が後ろにずれればずれるほど需要減の影響を大きく受け、社会的割引率を適用する前のB自体が小さくなる可能性がある。

北陸新幹線の敦賀以西ルートを比較する場合においても、上述のような社会的割引率を用いた費用対効果分析が行われている。算出結果のみを見るのではなく、分析の前提となる建設期間の設定を押さえておくことが必要である。事業評価のシミュレーション上の問題だけではなく、本質的な意味においても、早く着工し短期間の工期で開業することが、便益を最大化する上で極めて重要なことは言うまでもない。

 

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