コラム「黒い白鳥」に怯える世界経済

春日 尚雄

 通常は白く美しいはずの白鳥が、突然変異で黒い個体が現れることがある。これをあり得ないこと、予測できないことに喩えて「ブラック・スワン」と言うことがある。東日本大震災のような大規模自然災害や、サブプライムローン危機から派生した世界金融危機が近年のブラック・スワンの最たるものであろう。2016年には2つのブラック・スワンが見られた。1つは昨年6月におこなわれたイギリスにおける国民投票で、欧州連合からの離脱いわゆるBrexitが予想を裏切って決まった。今ひとつはアメリカの大統領選であり、大方の下馬評を覆してドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選出された。いずれも政治の世界の出来事ではあるが、世界経済にも大きな影響それもネガティブなインパクトとなって現れるであろうとみられていた。
 しかしながら、今年2017年の先進国を中心とした世界経済はここまで堅調であり、マーケット特に株式市場は米ダウが史上最高値を何度も更新するほどである。トランプ新大統領の経済政策に期待をかける「トランプ・ラリー」だけでは説明がつかないことが多々起きている。こうした背景もあり、アメリカの金融政策はQE(量的緩和政策)から政策金利を段階的に上げる出口戦略を進めることはすでに織り込まれている。こうしたアメリカの政策転換は、途上国・新興国からの資金引き上げと、これらの国・地域の成長鈍化を招くことはこの数年来言われてきたことでもある。またこの数年の原油など世界のコモディティ価格の大幅下落により、資源輸出国の経済パフォーマンスは相当悪化している。そのため、かつてBRICsと表現された高成長新興国市場にも、大きくその陰を落としている。
 その中で、常に世界の成長センターであり続けたのがアジアの経済圏であり、中核となったのは、中国でありASEANであり現在ではインドが成長を牽引し始めている。こうした世界経済の「アジア一本足打法」は、1992年の南巡講話以降の中国高度成長による寄与が大きかった中で、現在が最も顕著であろう。アジア経済のコンスタントな成長は当然ながら望ましいが、1990年代から大きな自律的調整もなく伸び続けてきた特に中国のような国は、社会的にも経済的にも大きな構造調整、リバランスの必要性を抱え続けている。こうした内的要因にアジア通貨危機のような偶発的な外的要因が加わった場合、見えていなかったアジア経済の脆弱性が一気に現れる可能性がある。
 グローバル化の進展により、地域の変動が世界経済へ与える波及効果は大きなものになっている。2007年のサブプライムローン危機に端を発する世界金融危機では、アメリカの市場原理主義の故であるとの声が聞かれた。しかし現在ではアジアの経済規模が格段に大きくなっていることから、アジアにおける危機的な負の事象は世界的な影響をもつだろう。また逆に欧米など先進国でそれが起きた場合にも、アジアの受けるダメージはさまざまな経路で拡散するであろう。今年はアジア通貨危機から20年、世界金融危機から10年が経過している。「ブラック・スワン」はどのような形で潜んでいるか判然としないが、長期におけるその出現の確率は非常に高いことを念頭に入れておくべきだろう。

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