日本および福井のインバウンド戦略に欠けているもの

池下 譲治

日本政府観光局(JNTO)によると、2017年に日本を訪れた外国人は11月までですでに史上最高を記録した昨年の2404万人を上回る2616万人に達している。なんとも景気の良い話ではあるが、気になることが2つほどある。第一に、政府のインバウンド戦略は数を増やすことに拘泥し過ぎているのではないかという点である。実際、「走れば躓(つまづ)く」の諺のとおり各種トラブルも増えている。そこで、ひとつ提案がある。外国人の目からみた日本の観光施設やサービスなどの品質を「見える化」してはどうか。それには、観光品質認証制度を確立するのが有効であろう。私のお勧めはニュージーランド(NZ)のクオールマーク制度である。実は7年前、雪国観光圏(注)の有志達とともにNZを訪問して調べたことがある。NZのインバウンド政策の根幹を担う同制度は宿泊施設やトレッキングなどのアクティビティをはじめ、博物館、美術館などのアトラクションや旅客機、観光バスといった交通機関に至るまでカバーしている。さらに、世界で初めて環境への貢献度についても評価基準に取り込むなど、NZの観光産業の国際的な認知度を高めるとともに飛躍的な発展をもたらしたのである。とここまで言ったが、実は、日本でもサクラクオリティという観光品質認証制度が最近出来上がっており、前述の雪国観光圏を中心に導入が進められているところである。クオールマークに比べるとカバー領域も少なくさらに改善すべき点があると思われるものの、民力でここまで到達したことに対して関係者には心から敬意を表したい。これとは別に、経済産業省が中心となり昨年から運用が始まっているのが「おもてなし規格認証制度」である。サクラクオリティと比べるとチェック項目がかなり少なく内容もやや漠としているものの、より幅広い業種が対象となっていることからお互いに補完的な役割を果たすことが期待できる。ただし、両制度とも、今後、国際的な認知度を上げていくためには横への広がりとともにさらなる改良や新たな連携などによるイノベーションが不可欠だろう。

2つ目の気になることとは、こうしたインバウンドの恩恵が福井県にはほとんど及んでいないという衝撃の事実である。即ち、2016年に日本の旅館・ホテルに宿泊した外国人は前年比5.8%増の延べ6939万人を記録した一方で、福井県のそれは前年比2.9%減の5万4360人と全国最下位に喘いでいるのである。何故だろうと不思議に思い、外国人の立場になって福井の観光案内所を訪ねてみた。すると、驚いたことに、そもそも福井には観光ツアーも観光バスもないことがわかった。しかし、初めて福井を訪れた外国人に電車やバスを乗り継いで永平寺や東尋坊を回れと言うのも酷な話である。そこで、2つ目の提案である。福井のインバウンド・インフラの整備はもちろん焦眉の急だが、ここでは敢えてマーケティングでいうところのプッシュ戦略による現地への売り込みを提案したい。訪日観光客の9割近くを占めるアジア系は通常、割安で効率的なパック旅行を利用する。ならば、福井や北陸での宿泊と文化的体験などを盛り込んだチャーターバスなどによるパック旅行を現地の旅行社とともに開発し現地の旅行博で売り込んではどうか。たとえば、マレーシアの場合、同国最大の旅行博MATTAフェア2017の来場者数は延べ12万人で、3日間の売上総額は50億円にも達する。そんなのとっくにやっていると言われそうだが、ポイントは現地の旅行社を巻き込むことと現地の目線で商品を開発することだ。現地ではディスティネーション毎に夫々得意とする旅行社が存在する。マレーシアでもっとも有力な訪日旅行社は実は大手ではなく日本のみに特化した非常に小規模な企業だったりするのだ。個々の客にアピールするのではなく、こうした旅行社に福井や北陸のファンになってもらい、そこから現地の顧客に広げてもらうのが私の考える「プッシュ戦略」である。大事なのは彼らにとって唯一無二のユニークで面白い旅体験を企画できるかどうか。まずは、アイデアを募って現地旅行社に売り込み、一緒にMATTAフェアに出かけてはどうか。逆境こそイノベーションを引き起こすチャンスなのだから。

(注)新潟、群馬、長野3県の7市町村を圏域とする観光圏

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