家族の形が変わる社会

丸山 洋平

人口減少社会とはどのような社会であるか。その1つの答えは、家族の形が変わる社会であると思う。国立社会保障・人口問題研究所は2018年1月に「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(以下、社人研推計)を公表した。これには将来の世帯数が家族類型別に集計されており、これから先の日本の家族がどのように変化していくのかということについての示唆が得られる。今回はこの資料を使いながら、今後の日本社会のありようを考えてみたい。

日本の総人口は2008年をピークに減少に転じているが、世帯数は増加が続いている。社人研推計によると、一般世帯数(「施設等の世帯」以外の世帯)は2015年の5,333万世帯から2023年まで増加を続け、5,419万世帯でピークを迎えることになる。人口減少局面でも世帯数が増加するということは世帯規模の縮小が続くことを意味しており、一般世帯の平均世帯人員は2015年の2.33人から2040年の2.08人まで減少を続ける見通しとなっている。この平均世帯人員の減少の要因となるのが単独世帯(単身者)の増加である。単独世帯は2015年の1,842万世帯から増加を続け、一般世帯総数が減少に転じる2023年以降も増加し、2032年以降に減少に転じる。この結果、2040年には2015年より153万世帯多い1,994万世帯となる。

この単独世帯の増加という変化の中で顕著に増加するのは高齢単身者であり、2015年の625万世帯から2040年の896万世帯へと増加する見通しになっている。この1つの背景は寿命が伸びたことによって、夫に先立たれた死別女性が単身者として生きる期間が長くなることがある。独居老人の増加の理由の1つであり、大きな社会問題ではあるものの、これは国民皆年金制度の帰結でもある。年金制度が充実していなかった時代には、夫に先立たれた死別女性は経済力を失うため、子ども世帯に養ってもらわなければならなかった。そのために親子同居・3世代同居をすることになる場合が多かったのである。それが国民皆年金となって以降は、少ない金額ではあるものの、死別女性が年金によって一人暮らしを続けることができるようになった。制度によって家族の形が変わったともいえるだろう。皆が望んだ年金制度ではあったが、その結果として、子どもが老親と同近居する機会は減ることとなったが、子どもを始めとする親族ネットワークの支援を得られずに孤独死等の本当に危険な状況に陥ってしまう独居老人を支える仕組みはまだ充足していない。

一方で未婚化や晩婚化も進んでいく。これらは少子化の原因であるともに、結婚を遅らせるという家族形成行動の変化である。若年層のみならず、中年層でも単身者が増加することになり、最終的には未婚であるために単身化する高齢者の増加に結び付くことになる。このような家族形成行動の変化は、夫婦と子からなる世帯の減少につながる(2015年:1,434万世帯→2040年:1,182万世帯)。これはいわゆるサラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人という「標準世帯」に相当するものであるが、これから先の日本は単独世帯の方が多くなり、「標準世帯」が多数派ではない社会になっていく。上述の年金制度を始め、今の日本の社会システムは1960年代にできたものが多い。当時は核家族化が進行しており、「標準世帯」が増加し、日本の家族・世帯の多数派を占めるようになっていた時代であった。したがって、それを主たる対象として制度を設計することは合理的ですらあった。しかし、現代社会では家族の形は多様化しているし、その中心にあるのは背景要因が多岐に渡る単身化である。

これまでの高齢者はきょうだいが多く、ほとんどが子どもを持っていた。しかし、これから先の高齢者はきょうだいが少なく、結婚しなかったために子どももいないというケースが多くなり、より孤立状態に陥りやすくなる。このような家族変動に対し、これまで高齢者の生活を支えてきた家族のシャドーワークを外部化していくことが求められる。現状の介護保険制度だけでは十分な効果が得られているとは言えない状況にあるので、行政と民間、地域住民との協働の中で解決策を模索し、地域社会を上手く機能させるような仕組みを作りだすことが必要になる。そして、そうした新しい仕組みが整備され、安心して高齢期を生きることができようになる地域が人々に居住地として選択されることになる。家族の形の変化を出発点とし、真の地域間競争が生じてくることになるといえるだろう。

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