福井経営モデルの特徴と今後の課題

木野 龍太郎

 福井県はモノづくりの盛んな地域であり、平成28年(2016年)経済センサス活動調査(福井県統計情報課)によれば、産業大分類別の事業所数の割合を都道府県別にみると、製造業の構成比は岐阜県に次ぐ全国2位(12.7%・5,292社)となっている。また、福井県内の従業者数については、産業大分類別では製造業が82,745人(構成比21.9%)と最も多い(ちなみに本学卒業生の卒業後の進路も、看護福祉学部を除く経済学部、生物資源学部、海洋生物資源学部において、製造業が最も多い結果となっている)。さらに付加価値額についても、産業別大分類では製造業が最も多い(5,529億円)という状況である。
 福井県は雇用情勢が良好であり、総務省統計局のデータによれば、生産年齢人口(15-64才)の有業率は平成29年(2017年)で全国トップの80.3%であり、非正規社員・従業員比率は全国で5番目に低い数値(34.6%・なお15-34才の若年層は26.0%と全国で2番目に低い)である。さらに、令和元年(2019年)6月の都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)をみると、就業地別では福井県の2.18倍が最高となっている。
 これらの点から推測されることは、福井県のモノづくりが多くの付加価値を生み出し、そのことが安定した雇用情勢に一定程度寄与しているということが言えるだろう。ただ残念なことに、福井県のモノづくり企業はやや知名度が低く、あまり一般の人達に知られていないのが現状である。これは、福井県にはいわゆるBtoB(企業を対象として事業や商取引を行う企業)タイプの企業が多く、結果として一般消費者が企業名を目にすることが少ないためだといわれる。しかし、そうした企業の取り組みが高い付加価値を生み出しているとしたら、その特徴を捉えることには大きな意味があると考えられる。
 そうした前提に立ち、筆者を含めた本学経営学科の教員で構成されたメンバーで、平成25—30年度(2013-2018年度)の期間において、「福井経営モデル」研究プロジェクトとして福井県内の企業への実態調査やフォーラムの開催を行い、それらを通じて福井県のモノづくりについて考察を行った。その特徴は以下の通りである。
 まず「福井経営モデル」に関するキーワードとして、「本業集中」、「技術重視」、「ニッチ市場戦略」、「真面目」、「勤勉」、「女性労働力の活用」、「家族的経営」、「人材定着率の高さ」といったものが挙げられる。必要以上の多角化を行わず本業に集中し、技術にこだわりを持ち、その技術を基盤とした製品によって、大手企業が参入してこないニッチ(隙間)市場で存在感を高める。そうした技術を蓄積・発展させていくために、勤勉で真面目な経営者や従業員が一体となって、コツコツと努力を積み重ね、顧客の細かい要望に応えていく、といったところであろうか。
 福井県内のモノづくり企業へのインタビューによれば、福井県は全体的に企業規模が小さく、資金力という点では不利ではあるが、逆に、企業規模が小さく柔軟な対応が出来ることを活かして、顧客ニーズにきめ細やかに対応出来ることを強みとしていることがわかってきた。そのためには、営業部門と研究開発部門などといった企業内の部門間での連携も重要となってくるが、インタビューを行ったいずれの企業も地元出身者が多く、コミュニケーションが取りやすくなっているとのことであった。
 また人材の点では、経営者が従業員を家族のように考えるという「家族的経営」によって、従業員の定着率が高くなり、結果として長期的な視点に立った人材育成や技能・技術の継承が可能となっている、といったことも聞かれた。さらに、福井県では比較的3世代同居が多く、女性が結婚・出産後も家族の支えによって仕事を続けていることが多く、女性の有業者数も高いことで知られている。そうした女性労働力の積極的活用により、きめ細やかな作業などを行ううえで役立っているとのことであった。
 加えて、近年注目されている「同族経営」という点で言えば、福井県ではこうした「同族経営」も多く見られており、そのなかで長期的視点による経営や、素早い意思決定、企業文化や兄弟哲学の継承が可能となっている点も重要であろう。
 一方で、平成27年(2015年)における都道府県・産業別1人平均月間実労働時間数(事業所規模5人以上)を見てみると、就業労働時間数は153.0時間で全国8位となっており、やや長時間労働の傾向がある。従業員が勤勉であることは素晴らしいことだが、それに過度に依存し負担をかけてしまうことになると、それを嫌った若年層の県外流出につながりかねないことから、人口減対策や従業員の定着という意味でも、「働き方改革」をどのように実践していくのかが課題であろう。
 また、地元出身者が多いことは社会でのコミュニケーションに有利に働くことは既に述べたが、一方で顧客ニーズを捉えるために、県外の顧客の近くに営業部門を置かれていることも多いなかで、地元出身者は県外での勤務を臨まないことが多く、そうした人材をどのようにして確保するのかが課題であるという話も聞かれた。近年、グローバル化が急速に進むなかで、福井県の企業が海外展開を行ううえで、このことがネックになってくることも懸念される。加えて、福井県自体の人口減少の問題もあり、地域内からの採用に依存することは将来的な労働力不足の問題につながりかねないことは、今後の大きな課題となるであろう。
 今回の研究プロジェクトでの活動を通じて、福井県のモノづくりの特徴を知るということに留まらず、都市圏の大企業が中心であった従来の経営学に対して、地方都市の中小規模の企業にも目を向けた経営学へのパラダイムシフトにつながる一歩になったのではないかと考えている。
 最後に、今回の研究プロジェクトを実施するにあたり、福井県内の経営者や関係者の皆様には、多大なるご協力を賜りましたことを、この場を借りてお礼を申し上げます。

以上

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