人の幸せを測る国際標準とは?

高野 翔

 “0段目はあなたにとって「最低の生活」、10段目はあなたにとって「最高の生活」。あなたの生活は今、ハシゴのどの段階にいますか?”読者の皆様はこの質問に0-10のどの数字を選ぶだろうか。ぜひ一度、ご自身の中で回答してもらえればとおもう。
 この質問は、人の幸せを測る現在の国際標準であり、キャントリルの階梯と呼ばれる方法だ。人生をハシゴと見立て、主観的な幸福度や満足度を測定する際に世界中で最も活用されている。例えば、国連機関が実施している世界幸福度調査(World Happiness Report)の世界ランキングも、この測定方法の結果に基づき公表され、マスコミを通じてそのランキングは注目の的となっている。最新の2020年の結果では、日本は153国中62位と低迷し、北欧諸国が上位を占めている。
 当然ながら上位国の常連である北欧諸国から学ぶことは多く、また日本は「寛容度」や「人生における選択の自由度」など、改善しなくてはいけない課題があることに論を待たない。しかし同時に、人生をハシゴと見立て、上にあがればあがるほど幸せであるという考え方・測定方法は本当に国際標準として普遍的なものであるのか、ということには議論の余地が多分にある。
 私自身はブータン王国で人の幸せを測るGNH調査にご一緒させてもらったが、その時に実感したことがある。ブータンのように中庸の文化を持つ国において、ハシゴにおける9や10を回答する者の割合は少ない。真ん中に位置する5を基準にしながら、よい状態と感じていれば、6や7を選ぶ傾向がある。2015年のブータンの調査では、この国際標準の質問での回答の平均値は6.88だった。また、調査において日常に感じている感情を尋ねる質問もあるが、ブータン人が感じてる一番多いポジティブな感情は「おもいやり(Compassion)」であった。刺激の強い高覚醒の幸せというよりも、平穏や安寧という言葉が似合う幸せの存在をブータンからは感じた。上にあがればあがるほどいいという価値観が幸せの唯一の源泉ではなく、文化的に必ずしも当てはまらない国も多いということを認識する必要がある。
 そこで現在、日本の公益財団法⼈であるWell-being for Planet Earthを中心に、西洋の価値観だけでなく日本を含む多様な地域の価値観も尊重し、新しい国際基準となる幸せ(ウェルビーイング)の測定方法の検討を進めている。様々なテーマでの議論が続いているが、一番注目したいのが、人生の調和・ハーモニーやバランスがとれているという幸福感を測定することへの挑戦だ。現在の幸せ測定の国際標準をハシゴ型と捉えるのであれば、振り子型の調和やバランスを重視した測定方法と言える。
 幸福度の議論はどうしても結果としてのランキングにのみ視線があつまってしまうが、ぜひ何をどのように測っているかにも一緒に注目してもらえれば嬉しい。

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