ジェンダー・ギャップ指数と女性取締役

中里 弘穂

ジェンダー・ギャップ指数と女性取締役

 2021年もコロナ禍で始まり、コロナ変異株への不安や対応で暮れようとしている。その中でオリンピック・パラリンピックの開催も話題になったが、日本における女性の活用の停滞や女性蔑視ともとれる発言等も世界から注目された。12月1日に発表された流行語大賞のトップ10に「ジェンダー平等」が選ばれていることからも、性別にかかわる差別の撤廃や多様性を受け入れる社会への意識の高まりを感じさせる。
 世界経済フォーラム(World Economic Forum : WEF)は、毎年各国における男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」を発表している。この指数は「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野の各国のデータから作成され、「0」が完全不平等、「1」が完全平等を示している。2021年3月に発表された日本のスコアは0.656で156か国中、120位と残念ながら大変低い。2020年も121位であまり改善は認められない。他の国を見るとドイツのスコアが0.796で11位、フランス0.784、16位、英国0.775、23位、カナダ0.772、24位、米国0.763、30位、イタリア0.721、63位と先進国といわれる国は、総じて日本よりもジェンダーギャップが低いことがわかる。アジア地域の国と比較してもタイ0.710、79位、ベトナム0.701、87位、韓国0.687、102位、中国0.682、107位と日本より順位が高く、日本のジェンダー平等が進んでいない状況は明白である。
 日本は特に「政治」及び「経済」の分野のスコアが低くなっている。WEFのレポート作成当時においては、国会議員の女性割合は9.9%、大臣の割合は10%に過ぎない(10月1日に投開票された衆議院議員の女性当選者は465人中45人で9.7%と前回選挙より減少した)。国は「第5次男女共同参画基本計画」の中で国会議員に占める女性の割合を2025年までに35%に引き上げるという目標を掲げているが、実現は厳しそうである。
 経済分野においてWEFのレポートは、働いている女性の割合は高いが管理職の女性割合が14.7%と低いこと、取締役の比率が低いこと、非正規雇用の比率が男性に比べ高いこと、平均所得が男性よりも低いこと等を指摘している。厚生労働省の「雇用均等基本調査」(2018年)によれば女性の管理職は部長相当職6.7%、課長相当職9.3%、係長相当職16.7%となっており課長職以上の管理職の比率は11.8%と報告されている(管理職に占める女性の割合)。OECDの2020年のデータでは、フランスの女性管理職比率は45.1%、ドイツは同36.3%、英国は同34.7%と報告され日本女性の管理職比率の低さが際立つ。内閣府の男女共同参画推進本部は2003年時点で「指導的地位に占める女性の割合を30%以上に」という目標を掲げているが、18年を経てなお実現には程遠い現状である。
 意思決定に意見が反映される取締役への登用はどうか。東京商工リサーチの調査によれば2021年3月期決算の上場企業2,220社の女性取締役(取締役・監査役)比率は7.4%で前年より1.4ポイント増加しているという。しかしながら女性取締役のいない上場企業は965社あり、43.4%に上る。女性取締役の場合社外取締役が多いことも特徴で、2017年の調査では弁護士23.5%、企業経営者22.1%、公認会計士・税理士10.2%、大学等の研究者9.1%と社外の専門知識を持つ女性を社外取締役として招聘する場合が多いようだ。経団連もまた2021年3月に、期限は明示していないが、企業の役員に占める女性の割合を30%以上にするという目標を掲げている。
 福井県の場合はどうか。2017年の総務省「就業構造基本調査」によれば、福井県女性の労働力率は56.1%と全国1位であり、正規雇用者比率も53.9%、全国2位と高い。平均勤続年数も11.4年と全国の9.8年を上回っている。しかしながら管理職比率は8.99%、全国46位となり、働く女性は多いが管理職として力を発揮する女性の少ないことが課題とされている。女性の取締役登用について有価証券報告書で確認してみる。12月20日時点で福井県の上場企業は15社ある。その中で女性取締役を有する企業は6社、6名である。そのうち5名が社外取締役であり、3名は2021年3月期以降に就任している。15社の取締役(取締役・監査役)総数は147名である。女性取締役のいる企業は4割に上るが、取締役に占める人数はわずかに4.1%であり、全国の7.4%よりもかなり低い状況である。
 企業の経営者からは「女性を取締役に登用したいが、人材がいない」との声をしばしば耳にする。経営全般に精通している人材と考えると厳しいかもしれないが、まず器を与えれば周囲の力を借りて育つのではないだろうか。先ごろアメリカの経済誌フォーブスが発表した「世界で最も影響力のある女性100人(2021年)」には東京都の小池知事と共に日銀初の女性理事となった清水季子氏が選ばれている。2022年には日本のジェンダーギャップ指数が向上し、より多くの日本人女性が世界で影響力のある女性に選出されることを期待している。

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