白亜紀後期「いわき琥珀」から新属・新種のゴキブリ化石を報告 ― 日本初の琥珀中ゴキブリ化石:夜行性行動の初期進化を示唆 ―
1 概 要
福島県いわき市に分布する双葉層群玉山層小久川部層の琥珀(いわき琥珀)から発見されたゴキブリ類の化石が、教育実践学研究所および福井県立大学恐竜学部による共同研究により、新属・新種として報告されました。論文は日本古生物学会の国際学術誌「Paleontological Research」に掲載されます。
この化石は、福島県いわき市で鈴木千里氏により発見され、福島県立博物館に保管されていた標本です。研究の結果、チャバネゴキブリ科(Ectobiidae)に暫定的に分類される新属・新種 Ovaliblatta iwakiensis(オバリブラッタ・イワキエンシス)であることが明らかになりました。
本標本は、体長約8.42 mmの若虫で、琥珀中にほぼ全身が立体的に保存されています。触角、脚、腹部、尾肢などの微細構造が観察でき、触角・尾肢・背板に多数の感覚毛が認められます。これらの特徴は、現生の夜行性ゴキブリ類に見られる特徴と共通しており、ゴキブリ類における夜行性行動の初期進化を示す重要な証拠となる可能性があります。
日本産の中生代ゴキブリ化石はこれまで山口県の三畳紀・ジュラ紀の印象化石や、福井県の白亜紀前期の印象化石などから知られていましたが、琥珀中に保存されたゴキブリ化石の報告は日本で初めてです。また、後期白亜紀コニアシアンの琥珀中ゴキブリ化石としても世界初の記録となります。
2 化石について
・学名:新属・新種Ovaliblatta iwakiensis (オバリブラッタ・イワキエンシス)
・標本番号:FM-N202200014(福島県立博物館所蔵)
・産地:福島県いわき市、双葉層群玉山層小久川部層
・時代:中生代後期白亜紀コニアシアン(約8700万~8600万年前)
・分類:ゴキブリ類(Blattodea)、チャバネゴキブリ科(Ectobiidae)に暫定的に分類
・大きさ:体長約8.42 mm、体幅約5.60 mm
・発育段階:若虫。性別は不明。
・特徴:体は楕円形で背側に膨らみ、前翅・後翅を欠きます。頭部は比較的小さく、複眼は輪郭から突出せず明瞭には発達して見えません。脚は長く頑丈で、爪の間には発達した爪間盤(arolium)が認められます。触角・尾肢・腹部背板には多数の感覚毛が保存されています。
・学名の由来:属名はラテン語の ovalis(楕円形の)と blatta(ゴキブリ)に由来し、種小名 iwakiensis は発見地である福島県いわき市に由来します。

図1 いわき琥珀中に保存された新属・新種 Ovaliblatta iwakiensis(FM-N202200014)。A:化石全体、B:頭部と触角の拡大、C:触角に保存された感覚毛。赤矢印は長い感覚毛、青矢印は短い感覚毛を示す。画像提供:教育実践学研究所/福井県立大学恐竜学部
3 発表論文
・学術誌名:Paleontological Research(日本古生物学会の国際学術誌)
・タイトル:Early evolution of nocturnal behavior in cockroaches documented by a new Coniacian (Late Cretaceous) amber fossil from Japan
・和訳:日本産コニアシアン(後期白亜紀)の琥珀化石から明らかになったゴキブリ類の夜行性行動の初期進化
・著者:Hiroaki AIBA, Nozomu OYAMA(相場博明、大山望)
・DOI:https://doi.org/10.2517/prpsj.25005799
・論文URL:J-STAGE掲載ページ
4 化石の発見と研究の経緯
本研究の標本は、福島県いわき市の双葉層群玉山層小久川部層から産出した琥珀中に含まれていたものです。この地層から産出する琥珀は「いわき琥珀」と呼ばれ、後期白亜紀コニアシアンの昆虫化石を含む重要な標本です。標本は地元の鈴木千里氏(福島県いわき市在住)によって発見され、福島県立博物館のコレクションに収蔵されました。その後、琥珀を薄く切断・研磨し、実体顕微鏡および光学顕微鏡を用いて、体各部の形態を詳しく観察しました。写真撮影時には琥珀をツバキ油に浸すことで、内部構造をより鮮明に記録しました。
詳細な比較の結果、この標本は既知のゴキブリ化石および現生チャバネゴキブリ科の既知属とは異なる特徴をもつことが分かり、新属・新種として記載されました。いわき琥珀からの新種昆虫の報告は、2024年に報告された寄生バチ(チサトムカシホソハネコバチ)、2025年に報告されたカメムシ(クチナガフタガタカメムシ)に続くものです。


図2 新属・新種Ovaliblatta iwakiensis の復元図(左)と生態復元図(右)。復元画:かわさきしゅんいち。画像提供:教育実践学研究所/福井県立大学恐竜学部
5 学術的意義
1)日本初の「琥珀中のゴキブリ化石」であること
日本国内からは、これまで三畳紀の美祢層群、ジュラ紀の豊浦層群、白亜紀前期の手取層群などからゴキブリ化石が知られていました。しかし、これらは主に岩石中に押しつぶされた印象化石でした。本研究の標本は、琥珀中に立体的に保存された日本初のゴキブリ化石であり、従来の化石では観察が難しい微細構造を記録しています。
2)白亜紀後期のゴキブリ類の空白を埋める重要な記録であること
琥珀中の中生代ゴキブリ化石は、近年ミャンマー産の約9900万~9800万年前の琥珀から多数報告されています。一方で、それより新しい白亜紀後期の琥珀中ゴキブリ化石は世界的にも少なく、本標本は後期白亜紀コニアシアン後期(約8700万~8600万年前)の記録として非常に重要です。
3)夜行性行動の初期進化を示唆すること
本標本では、複眼が大きく発達して見えない一方で、触角・尾肢・腹部背板に多数の感覚毛が保存されています。これらの感覚毛は、周囲の微細な動きや機械的刺激を感知する器官と考えられます。現生の多くのゴキブリ類が夜行性であることを踏まえると、本標本は白亜紀後期までにゴキブリ類で夜行性行動が進化していた可能性を示す重要な化石記録です。
4)いわき琥珀の学術的重要性をさらに高めること
いわき琥珀からは、これまでに白亜紀後期の寄生バチやカメムシが報告されています。今回のゴキブリ化石の記載により、いわき琥珀が当時の陸上生態系、特に昆虫類の多様性と進化を復元するうえで重要な資料であることが改めて示されました。
6 画像について
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7 問い合わせ先
昆虫化石の学術的内容(標本・分類・進化)について
福井県立大学恐竜学部 助教(福井県立恐竜博物館 研究員) 大山 望
E-mail:oyama@g.fpu.ac.jp
教育実践学研究所 所長/東京学芸大学非常勤講師 相場 博明
E-mail:erimomisa@gmail.com
本リリースの発信元
福井県立大学 恐竜学部
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