【研究成果】魚類IgT抗体がエラの常在細菌叢のバランスや病原体の感染防御を制御することを発見

2020年3月6日 

 海洋生物資源学部 海洋生物工学研究室の瀧澤文雄 准教授は、ペンシルベニア大学のDr. Sunyerおよびニューメキシコ大学のDr. Salinasらと共同で、ニジマスのIgT抗体が粘膜組織であるエラにおける常在細菌叢のバランス維持や寄生虫感染の防御に深く関わっていることを明らかにしました。

 この研究成果は、米国科学雑誌「Science Immunology」オンライン版に掲載され、掲載号の表紙に選出されました。
https://immunology.sciencemag.org/content/5/44 (Science Immunologyホームページ)

 研究内容の詳細は別紙資料もご参照ください。 別紙資料(PDF形式 475キロバイト)


【ポイント】
・IgTは、粘膜面における寄生虫に対する感染防御に重要である
・IgTは、鰓において特定の有益菌や有害菌に結合し、常在細菌叢のバランス維持に寄与する
・IgTの枯渇は、常在細菌叢の乱れや細菌の組織移行を誘発し、組織損傷や炎症応答を誘導する
・IgTを効果的に誘導させることで、粘膜ワクチンや寄生虫ワクチンの発展が期待される
 

【本研究の意義】
 鼻腔、口腔、気道、消化管などの粘膜組織には、多量の微生物が常在し、常在細菌叢を構築しています。常在細菌叢は、動物の体内で共生関係を保ち、栄養素の供給や免疫系の活性化などによって宿主の健康維持に貢献しています。一方、これら粘膜組織は、病原体や常在細菌叢中の潜在的な有害菌の主な侵入経路であるため、常に病原体の感染リスクに晒されています。
 ヒトでは、IgAという抗体が粘液中に多量に分泌され、粘膜組織における常在細菌叢の制御や病原体の排除に関わることが知られています。魚類は全身が粘膜に覆われているにも関わらずIgAがないことから、粘膜組織では魚類独自の抗体であるIgTが重要であることが予測されていましたが、どのような役割を担っているか不明でした。 
 そこで本研究グループは、ニジマスを用いてIgTが結合している常在細菌の種類を調べ、さらにIgTを一時的に枯渇させることにより、IgTと常在細菌叢あるいは病原体との関係を詳細に調べました。その結果、ニジマスのIgTは、鰓の特定の有益菌と有害菌の両方に結合していることが分かりました。また、IgTを枯渇させると、常在細菌叢の構成が変化し、有益菌が減少する一方で、有害菌が増加することを発見しました。さらに、細菌が組織や血中に移行し、組織の損傷や炎症応答が誘導されることが分かりました。また、IgTの枯渇は、寄生虫感染に対する抵抗性を減弱させることも明らかになりました。これらの結果から、IgTは、ヒトのIgAのように粘膜面における常在細菌叢の維持や病原体の感染防御に必須な因子であることが分かりました。
 本研究は、水産養殖において求められている粘膜ワクチンや寄生虫病対策にも関わる研究であり、今後の発展が期待されます。

【研究論文名】Specialization of mucosal immunoglobulins in pathogen control and microbiota homeostasis occurred early in vertebrate evolution
【論文著者】      Zhen Xu*(ペンシルベニア大学、華中農業大学)
         瀧澤 文雄*(ペンシルベニア大学、福井県立大学)
         Elisa Casadei(ニューメキシコ大学)
         柴崎 康広(ペンシルベニア大学)
         Yang Ding(ペンシルベニア大学)
         Thomas J. C. Sauters(ニューメキシコ大学)
         Yongyao Yu(ペンシルベニア大学)
         Irene Salinas(ニューメキシコ大学)
         J. Oriol Sunyer(ペンシルベニア大学)
         *共同第一著者

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