先端増養殖科学科濵口昌巳教授らによる地球温暖化防止に向けたブルーカーボン機能研究プロジェクトが始動します!

地球温暖化の進行を食い止めるために、世界中の多様な組織は、二酸化炭素排出量削減などに取り組んでいます。本学でもカーボンニュートラルを目指して、研究を強化するとともに、県内企業等との連携を推進します。カーボンニュートラルを達成するためには、排出源削減に加えて吸収源の強化も必要となります。吸収源としては、森林などのグリーンカーボンが有名ですが、海洋では海草類やマングローブなどによるブルーカーボンがあります。

今年度、国立研究開発法人科学技術振興機構が管轄する戦略的創造研究推進事業 (CREST)の中で、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の「海洋貯留による藻場吸収源デジタルツイン構築」が、採択されました。

海洋生物資源学部 先端増養殖科学科 濵口 昌巳教授 は長年、水産庁等のブルカ-ボン研究に携わってきましたが、今回、このプロジェクトには東京大学大気海洋研究所のグル-プの一員として参画し、今後、5年間藻場による二酸化炭素吸収やその後の長期貯留機構を解明するための「先端的分析技術・実験技術の開発と応用」に取り組むことになりました。このテーマではこれまでブルーカーボン効果が不明であった大型褐藻類を中心に研究を行います。福井県等の日本海側沿岸域では大型褐藻類の一種であるアカモクなどのガラモ類が大量に繁茂しています。この研究が進めば、福井県沿岸域の海藻類も地球温暖化の防止のために役立つということが評価できるのではないかと期待されます。

1.研究のポイント

〇  大型褐藻類のブルーカーボン効果の評価のためには主にガラモ類の沖合への移送や海底堆積物中にガラモ類の生産物がどの程度残されているのかを定量的に調べる技術が必要です。私たちは環境DNA技術を用いて2018年に海草類であるアマモの生産物が瀬戸内海では数千年貯留されていることを科学的に証明しましたが、今回のプロジェクトでは環境DNAに加えて新たなバイオマ-カ-を使い大型褐藻類の生産物の検出技術を開発します。

〇  ガラモ類やコンブ類などの大型褐藻類はフコイダンなどの可溶性の有機炭素化合物を海水中に放出しますが、このような成分も二酸化炭素の長期貯留に役立つといわれています。そこで、それらの定量技術を開発することによって、大型褐藻類の二酸化炭素吸収源評価が可能となります。
 

2.研究の意義                                

我が国の国土面積は世界で61番目ですが、海洋面積を加えると世界で6番目となるため、世界有数の海洋大国といえます。そのため、海の有効活用が求められており、ブルーカーボン研究の推進は国策にかなったものであると考えられます。福井県は長い海岸線を持ち、豊かな森林もあります。そのため、このような自然条件を最大限に活用することによって、地球温暖化防止のための二酸化炭素吸収源を強化することができます。今回の研究プロジェクトの成果をいち早く取り入れることによって福井県下のブルーカーボン機能評価を進め、二酸化炭素吸収量を増やすような施策に繋がるのではないかと期待されます。

昨年度から本年度にかけて県内外の多くの企業からブルーカーボンに関する問い合わせが多く寄せられていますが、これらに応え、福井県でもブルーカーボンを活用した二酸化炭素削減を強化できればと考えています。
 

3.用語の説明

〇カーボンニュートラル:二酸化炭素の放出と吸収が相殺されている状態を指します。

〇ブルーカーボン:009年に国際連合環境計画(UNEP)の「ブルーカーボンリポート」によって提唱された用語で海草類、塩生湿地、マングローブ類による二酸化炭素の吸収とその後の長期貯留機能を指す総称。ただし、ブルーカーボンリポートでは大型褐藻類のブルーカーボン効果はないとされていました。しかし、近年、大型褐藻類のブルーカーボン機能の評価がされており、現在の研究の焦点となっています。

〇戦略的創造研究推進事業 (CREST)は、国が定める戦略目標の達成に向けて、課題達成型基礎研究を推進し、科学技術イノベーションを生み出す革新的技術シードを創出するためのチーム型研究です。今年度の領域設定には「海洋とCO2の関係性解明と機能利用」がありました。この研究領域では、異分野融合アプローチによる、大気・陸域と海洋の炭素交換過程の解明、大気中CO2濃度増加への生態系を含む海洋の応答機能の解明を通じた海洋とCO2の関係の統合的理解と、海洋機能を最大限活用した気候変動対策のためのイノベーション創出を目指します。

〇国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC):文部科学省所管の国立研究開発法人であり海洋研究開発および関連する地球物理学研究開発のために設置された研究所。

〇ガラモ類:海藻のうちアカモクなどのホンダワラの仲間を指す総称。

〇フコイダン:大型褐藻類が産生する高分子有機炭素化合物。近年、保湿効果や抗腫瘍活性などの生理活性が知られています。

 

図1

排出された二酸化炭素は海洋では海水中に溶け込むとともに、植物プランクトンや海草・海藻類によって吸収され、その一部は長期貯留されると考えられています。ブル-カ-ボンとはこのうち海草・海藻類、塩生湿地、マングロ-ブによって吸収および長期貯留される二酸化炭素のことです。工業等から排出される二酸化炭素は約72億トンと推定されており、そのうち9億トンは森林など、約22億トンが海水中やブル-カ-ボンが吸収すると推定されています。しかしながら、ブル-カ-ボンの正確な吸収量はまだよく解っていません。
 

図2

ガラモ類とはアカモクなどのホンダワラ類を中心とした海藻類の総称で日本海沿岸域に多数繁茂しています。西日本の太平洋側の藻場は磯焼け減少が進み、クロメやアラメなど温帯性コンブ類やガラモ類がほとんどない状態になっています。しかし、福井県沿岸ではガラモ類は未だ多数繁茂しており、これらのブル-カ-ボン機能を評価することは本県のみならず日本全体にとってとても重要と考えています。先端増養殖科学科では下の写真のように増養殖研究の傍らで福井県下の海草・海藻藻場の調査を行っています。

藻場調査
 

図3

ガラモ類は気泡を持っているために浮きやすいので、ガラモ類によって吸収された二酸化炭素は藻体が流れ藻となって深海底に移送されて残存することが考えられます。このことは、沖縄トラフや日本海溝などの水深が1000m以上の海底堆積物中からガラモ類の環境DNAが検出されることでも明らかとなっています。それ以外にも、ガラモ類は成長過程で可溶性のフコイダンなどの有機炭素類を排出しますが、これが海水中や海底堆積物中に残存することで二酸化炭素の長期貯留に役立っているのではないかと考えられています。今回の研究プロジェクトでは図3のケース2について詳細に調べる予定です。


 

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