世界初!酸素可視化センサでイネが水中で発芽する仕組みを見える化! ~イネの直播栽培への応用に期待~

2022年8月16日 

 生物資源学部生物資源学科・塩野克宏准教授らの国際研究グループは、我が国初となる植物用酸素可視化センサ(2次元酸素オプトード1)を開発し、湿生植物の水中での発芽プロセスと酸素分布の関係を可視化することに、世界で初めて成功しました。これは50年前に予見されていた「種子が大気中の酸素を水中に取り込むシュノーケル効果2が実在する」という発見です。このたび、研究成果が植物科学分野の国際学術誌「Frontiers in Plant Science」のオンライン版に掲載されました。

本研究の成果は、イネをはじめとした湿地で生きることのできる植物の環境適応メカニズムの理解に寄与します。労働力の省力化につながるイネの直播栽培3は国内外で精力的に技術開発と普及が進められていますが、本研究で確立した植物用の酸素可視化技術は直播栽培法の評価・改良や育種への応用が期待されます。
 

研究内容について  

1.成果のポイント
○これまで湿生植物の水中での発芽に重要な酸素分布の変化は未解明
○我が国初の植物用の酸素可視化センサをデンマークとの国際共同開発
○世界初!酸素可視化センサでイネが水中で発芽する仕組みを見える化
○苗立ちの改良が求められ ている、イネの直播栽培法の評価・改良への応用が期待

2.本研究について

<背景・目的>
酸素の 少ない 「水中」ではほとんどの植物は芽生えることができません。しかしイネやヒエなどの一部の湿生植物は水中でも発芽し、育つことができます。そのような 植物の種子は 、まず水中で 子葉鞘 だけ を伸ばします (図1 B) 。 子葉鞘は内側が空洞になったパイプのような構造をしているため、水上に出ると酸素を胚に届けるパイプとして働くという仮説 (シュノーケル効果2 )(図1 C )が 、50年ほど前に提唱されていました。酸素がイネの葉と根の発達に必要であることから、シュノーケルとしての子葉鞘の機能が水中の発芽を決定づけています。苗立ちの成否を左右する、発芽過程の酸素の空間分布を把握することは重要ですが、その評価法がないため、これまでブラックボックスとなっていました(図1C)。

<結果>
今回、我が国初となる植物用酸素可視化センサ(2次元酸素オプトード1 )を開発し、湿生植物の水中での発芽プロセスと酸素分布の関係を可視化に、世界で初めて成功しました(図1 D)。生育と酸素分布の追跡調査により、酸素の状態の変化に応答して秩序だって発生する、イネの苗立ちの仕組みを明らかにしました。

<成果の意義>
国内外でイネの栽培省力化のために、直播栽培3 を効率化するための栽培技術や育種が進んでいます。しかし、出芽・苗立ちが不安定であるため、さらなる改良が求められています。 今回、開発した植物用酸素可視化センサは育種や直播栽培法の検証に応用できる技術です。福井県は水稲作付面積の15%を直播栽培2019年の値が占める、国内トップクラスの直播栽培普及県で も あります。本法を直播栽培の改良に応用することで、さらなる 生産性、品質の向上が期待されます。

シュノーケル効果説明画像

図1 . 今回 、可視化に成功した、イネの水中での発芽プロセスと酸素分布の関係
(A)水中は植物のエネルギー合成( ATP 合成)に必要な酸素が少なく、イネにとっても過酷な環境です。
(B)イネは葉と根を伸ばすためのエネルギーを温存するため、最初はシュノーケル装置である子葉鞘だけを伸ばします。
(C)子葉鞘は内側が空洞になったパイプのような構造をしているため、水上に 出 ると 酸素を胚に届けるパイプとして働くと いう仮説が提唱されていました (シュノーケル効果 )。
(D)今回、シュノーケル効果 を裏付けるように、子葉鞘が水上に到達 して約3時間後、種子胚ちかくで酸素が急激に増えること を実証しました。この時、それまで 胚の中に格納されていた根Bは、胚から出根を始めていました(D)。
(E)このような酸素のやりとりを経て、葉は子葉鞘の内側を通って水上に現れ、最終的にイネは酸素通気機能をもった葉と根を発達させ、イネは水田で生育できるようになり ます。

【用語解説】
※1  2 次元酸素オプトード ・ ・・面的な酸素濃度分布を非破壊で定量できる 光化学センサ。酸素濃度に応じてセンサとなる色素分子の光化学的特徴(発光の消光時間や強度)が変化することを利用して、酸素濃度 を定量する。色素分子の発光情報をカメラやCCDで画像として検出し、画像解析することで、平面的な酸素濃度イメージを得ることができる。
※2 シュノーケル効果 ・・・ イネやヒエ は水中での発芽の際、内側が空洞状になったパイプのような子葉鞘を伸ばす。この子葉鞘の先端が水上に出ると、酸素を胚に届けるパイプとして働くという仮説。水遊びで使う、シュノーケルに似た役割であることから、シュノーケル効果と呼ばれている。
※3 直播栽培 ・ ・・ 多くの日本人になじみのある移植栽培とは異なり、水田に直接種をまくイネの栽培法。育苗の必要がないため、直播栽培は省力化、低コスト化への期待が大きい。

3.有識者および研究員のコメント
(1)東京大学大学院 農学生命科学研究科 農学国際専攻国際植物生産学講座教授 加藤洋一郎
  気候変動の影響で稲作における洪水被害が増えており、イネの水中出芽に関して世界で初めて証拠を示した本研究は非常に重要な発見です。農業人口低下とともに世界各地で直播栽培導入による稲作省力化が期待されており、今回の発見は稲作技術革新に繋がることが期待されます。
(2)越出晃子研究員※4 のコメント
  今回、発芽時の酸素濃度の時間変化を画像にて取得するという興味深い実験に携わることができ、大変うれしく思います。これから更に研究が進み、水中で発芽するイネ以外にも様々な植物の発芽について解明されていくと良いと感じております。
※4 2006年本学生物資源学科卒業、2019年より再び本学で技術補佐として勤務

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