トカゲ類の頭骨の構造に関する 研究論文を発表しました(トカゲ類の多様な頭骨形態を生み出す要因の解明につながる結果)

2022年9月8日 

 本学大学院生物資源学研究科修了生の朝倉侑也氏と指導教員である本学恐竜学研究所の河部壮一郎准教授は、比較解剖学の分野で新たな手法として利用されはじめてきている「解剖学的ネットワーク分析」という手法を用いてトカゲ類の頭骨を解析し、トカゲ類頭骨の多様な形態が生み出される要因について迫りました。

 本研究では、現生トカゲ類および近縁種58種の頭骨の解析を行いました。解剖学的ネットワーク分析は、解剖学の分野で近年注目され始めてきた解析手法で、骨同士のつながりを見ることで、頭骨内のどの部分同士のつながりが強いのか、あるいは関連性が低いのかなどを明らかにすることができます。この手法を用いることで、多様な形態を示すトカゲ類の頭骨にも関わらず、トカゲ類全般において頭骨の構造は共通して強いつながりによってまとめられる3つの領域(眼窩前領域、眼窩後領域、下顎領域)で成り立っていることがわかりました。一方で、トカゲ類よりも原始的な動物であるムカシトカゲの頭骨は、4つの領域で成り立っており、トカゲ類の頭骨の作りとは大きく異なっていることもわかりました。骨同士の結びつきの関係が変化することで、トカゲ類の頭骨の多様性が高くなり、現在のトカゲ類の繁栄につながったということがうかがえます。この研究成果は、オープンアクセス科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

1.本研究の意義
 脊椎動物の頭骨は多くの骨が組み合わせあって形作られています。このような骨要素同士のむすびつきの度合いを調べることは、頭骨の形態進化を促した要因を知ることにつながります。
  トカゲ類頭骨における領域の結びつきの強さの度合いについては、頭骨の全体的な形から探る研究はあったものの、骨要素一つ一つの空間的結びつきという視点から解析した例はありませんでした。本研究では「解剖学的ネットワーク分析」という手法を用いることで、初めてトカゲ類頭骨の骨要素同士のつながり方のパターンを定量評価し、さらにはトカゲ類の頭骨を形作る共通性あるいは特異性を見出すことに成功しました。

2.論文情報 
  研究論文名  Anatomical network analyses revealevolutionary integration and modularity in the lizards skull
        (解剖学的ネットワーク分析によるトカゲ類頭骨における進化的統合とモジュール性の解明)
    著    者    朝倉 侑也(福井県立大学大学院生物資源学研究科 博士前期課程修了)※
          河部 壮一郎(福井県立大学恐竜学研究所)
         「※」は研究代表者、現所属は東京大学大学院理学系研究科(博士後期課程)
    掲載雑誌名  Scientific Reports
  U R L  https://doi.org/10.1038/s41598-022-18222-8

研究内容について 

トカゲ類頭骨の構成パターンを解析:
トカゲ類の多様な頭骨形態を生み出す要因の解明につながる結果  

【ポイント】
・頭骨を構成する様々な骨要素一つ一つのつながり方について、近年着目されはじめている「解剖学的ネットワーク分析」という手法を用いることで、初めてトカゲ類において定量評価しました。
・トカゲ類全般において頭骨の構造は、共通して強いつながりによってまとめられる3つの領域(眼窩前領域、眼窩後領域、下顎領域)で成り立っていることが明らかになりました。
・トカゲ類の進化の過程で、骨同士のつながりの関係が変化することで、頭骨の形態的多様性が高くなり、現在のトカゲ類の繁栄につながったという可能性が示されました。

【研究内容と意義】
 脊椎動物の頭骨は多くの骨が組み合わさって形作られています。しかし、頭骨を構成する一つ一つの骨要素間のつながりの強さは頭骨の中でも均等ではなく、ある領域の骨要素同士のつながりはとても強く、一方でその領域以外の骨要素同士のつながりは薄いという傾向が見られたりします。このような 頭骨の中での骨要素同士の関連性の度合いを調べることは、頭骨の形態進化を促した要因を知ることにつながります。
 そこで、「解剖学的ネットワーク分析」という手法を用いることで、初めてトカゲ類頭骨の骨要素同士のつながり方 関係を定量評価しました。解剖学的ネットワーク分析は、解剖学の分野で近年注目され始めてきた解析手法で、骨同士のつながりを見ることで、頭骨内のどの部分同士のつながりが強いのか、あるいは関連性が低いのかなどを明らかにすることができます。
 現生トカゲ類57種とムカシトカゲ目 1種の頭骨を解析したところ、 トカゲ類全般において頭骨の構造は共通して強いつながりによってまとめられる3つの領域(眼窩前領域、眼窩後領域、下顎領域)で成り立っていることがわかりました。特に上顎の2つの領域について、眼窩前領域は採餌行動、眼窩後領域は顎の開け閉めや脳の保護といった機能と関係していると考えられます。さらに、トカゲ類よりも原始的な動物であるムカシトカゲの頭骨は、4つの領域で成り立っており、トカゲ類の頭骨の作りとは大きく異なっていることが明らかになりました。
 加えて、トカゲ類はムカシトカゲよりも骨要素のつながりが密である一方で、その密度には偏りがあることもわかりました。これは、トカゲ類は進化の過程で頭骨の作りの統合性を高めながらも、各領域内の骨のつながりパターンを特殊化させていったことを示します。このことは、トカゲ類が様々な環境へ適応できていった理由の一つとして考えられます。

ムカシトカゲ目とトカゲ類の頭骨における骨要素のまとまり方の違い

図 . ムカシトカゲ目とトカゲ類の頭骨における骨要素のまとまり方の違い

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