世界初の証明、本学教員の研究論文が世界的権威の科学誌に掲載

2022年11月11日 

 生物資源学部生物資源学科・濱野 吉十教授らの研究グループは、微生物(細菌)によって生産されるポリマー化合物が動物細胞の細胞膜を極めて効率良く透過することを世界で初めて証明し、研究論文が世界的権威のあるCommunications Biology 誌に掲載され、詳細について11月10日(木曜日)に記者会見で説明しました。
 会見では、研究の成果が細胞内部の異常が原因で起こる疾病に対しても有効なバイオ医薬と抗体医薬への利用・応用およびバイオ材料のコーティング材としても期待されており、本学発のベンチャー企業「マイクローブケム合同会社」で社会実装が進められていることを説明しました。出席された記者の方は、発表内容に大変興味を持っていただき、活発な質疑応答が行われました。(参加メディア:福井新聞社、日刊県民福井、読売新聞社、日刊工業新聞社、共同通信社)

             クロロタウリン採用
             図1.発表後の質疑応答の様子、右から順に
                 濱野 吉十教授
                 坂本 祥宏(マイクローブケム合同会社代表)
                 武内 大和(博士後期課程3年生)
                 丸山 千登勢准教授
 

1. 論文著者(研究グループ)について

筆頭著者
(主研究者)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科
生物資源学専攻 博士後期課程3年生

武内 大和
(たけうち やまと)

福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科 博士研究員
(現 産業技術総合研究所 研究院)

牛丸 和乗 博士
(うしまる かずのり)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科
生物資源学専攻 博士前期課程 修了生(令和2年3月修了)

兼田 康平
(かねだ こうへい)

共著者
(共同研究者)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科 生物資源学専攻 准教授
マイクローブケム合同会社

丸山 千登勢 博士
(まるやま ちとせ)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科 
生物資源学専攻 教授

伊藤 崇志 博士
(いとう たかし)

関西大学 化学生命工学部
生命・生物工学科 准教授

山中 一也 博士
(やまなか かずや)

北海道大学大学院 工学研究院
応用化学部門 生物工学分野 准教授

小笠原 泰志 博士
(おがさわら やすし)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科
生物資源学専攻 教授

片野 肇 博士
(かたの はじめ)

富山県立大学 工学部
生物工学科 教授

加藤 康夫 博士
(かとう やすお)

北海道大学大学院 工学研究院 応用化学部門
生物工学分野 教授

大利 徹 博士
(だいり とおる)

責任著者
(研究代表者)

福井県立大学大学院 生物資源学研究科 生物資源学専攻 教授
マイクローブケム合同会社

濱野 吉十 博士
(はまの よしみつ)

2. 掲載論文題目
 First direct evidence for direct cell-membrane penetrations of polycationic homopoly(amino acid)s produced by bacteria
 (細菌によって生産されるポリカチオン性ホモポリアミノ酸の細胞膜直接透過性の証明)

3. 論文掲載号
 Communications Biology, 5, 1132, 2022(2022年10月26日オンライン掲載)

4. 研究成果の概要
 ・微生物(細菌)によって生産されるポリカチオン性*1のポリマー化合物*2であるε-ポリ-L-α-リジン(ε-PαL)と
      ε-オリゴ-L-β-リジン(ε-OβL)が動物細胞の細胞膜を極めて効率良く透過することを世界で初めて証明しました。

 ・タンパク質、酵素、抗体などの大きな分子は、通常、動物細胞の細胞膜を透過できません。
      しかし、ε-PαLやε-OβLと結合させることで、動物細胞の細胞膜を透過し、細胞内部や核の中にまで
      送達することを明らかにしました。

  *1ポリカチオン性:プラス(+)の正イオンを多数もつ性質
  *2ポリマー化合物:小さな化合物が連なって結合し、大きな分子に成長した化合物

5. 研究成果が与える社会への波及効果
 ・タンパク質や酵素、そして、抗体をクスリとして利用するバイオ医薬や抗体医薬は、現在の医薬品開発に
      欠かせない存在になっています。ε-PαLやε-OβLと結合させたバイオ医薬や抗体医薬は細胞膜を透過できることから、
      細胞内部の異常が原因で起こる疾病に対しても有効なバイオ医薬と抗体医薬の開発が期待されます。

 ・ε-PαLやε-OβLは微生物や微生物酵素によって合成される化合物であるため、
     従来の細胞膜を透過する化合物と比較すると、圧倒的に製造コストが抑えられます。したがって、
     ε-PαLとε-OβLは実用化に最も近い細胞膜透過性化合物として期待されます。

 ・ε-PαLやε-OβLの親水性と抗菌活性、そして、生体適合性は、医薬品だけでなくバイオ材料の
      コーティング材としても期待されています。

6. 研究成果の社会実装
 ・本研究成果に関連した技術は、国内特許を取得済みであり、現在、アメリカ、ヨーロッパ、中国での
      特許取得を目指しています。
 ・本研究成果を社会実装するために、2020年2月に福井県立大学発ベンチャーであるマイクローブケム合同会社を設立し、
      有償サンプルの製造・販売を行っています。

7. 本研究成果に関する学外有識者からのコメント
 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 西山 真(にしやま まこと)
 「微生物が生産するポリカチオン性のホモポリアミノ酸が細胞膜透過性を示すことを実証し、その応用利用によって、
     タンパク質や抗体を細胞内に届ける技術を構築できたのは画期的な成果と言える。」

 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 葛山 智久(くずやま ともひさ)
 「微生物がポリカチオン性ホモポリアミノ酸を作る仕組みを理解し、それを応用してタンパク質や抗体を細胞内に
     届ける技術を構築した画期的な成果。この革新的な技術は、今後の生化学の実験手法を大きく変える可能性がある」

8. その他
 本研究成果につながった基礎研究の成果は、科学誌において世界的権威のあるNature Chemical Biology誌に2報が
   掲載されています。
 Nature Chemical Biology, 4, 766-772 (2008)
 Nature Chemical Biology, 8, 791-797 (2012)

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