黒酵母由来β-グルカンの抗炎症効果および抗がん活性を発見

2023年2月16日 

 本学生物資源学部の木元教授が、大邱カトリック大学との共同研究により黒酵母が産生する多糖であるβ-グルカンに優れた「抗炎症作用*」や「抗がん活性**」があることを確認しました。
 木元教授が黒酵母のβ-グルカンに着目して調製し、大邱カトリック大学の金教授が生理活性を評価した共同研究です。

 *Anti-inflammatory effects of β-1,3-1,6-glucan derived from black yeast Aureobasidium pullulans in RAW264.7 cells.
 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0141813021022236

 **Low-Molecular-Weight β-1,3-1,6-Glucan Derived from Aureobasidium pullulans Exhibits Anticancer Activity by Inducing Apoptosis in Colorectal Cancer Cells.
 https://www.mdpi.com/2227-9059/11/2/529

 免疫機能は自己と非自己を見分けて病原体などの異物を炎症反応により排除する機能ですが、加齢・疲労・過労・睡眠不足・栄養不良・精神的ストレス・がんの治療などにより低下し、細菌やウイルスに感染しやすくなったり、がん細胞を排除できなくなったりします。また、逆に免疫機能が暴走すると、炎症などが強く惹起されて「アレルギー」や「自己免疫疾患」などを引き起こします。これまで私たちは予防医学の観点から、免疫機能を正しく活性化したり抑制したりする「免疫調節物質」の探索を行ってきました。「免疫調節物質」は免疫機能を調節し、感染症やがんに対する体の抵抗力を高めるとともに、過剰な免疫反応を抑制してアレルギー症状を抑えることが期待される物質です。

 今回、私たちは古くから抗腫瘍活性(免疫機能を高めることによる)が注目され、医薬品や機能性食品として使われてきたβ-グルカンに着目しました。β-グルカンはグルコースがβ結合で多数連結した強固な高分子多糖の総称で、自然界には様々な分子型のβグルカンが存在しており、担子菌類(キノコ)や真菌類(カビや酵母)の細胞壁や大麦などの穀類、海藻などにも含まれていることが知られています。しかしながら、β-グルカンの効果は菌類の種類ごとに異なることから、その有効成分は長い間不明でした。その後の研究により、有効成分は主鎖から分岐した「側鎖」のあるβ-グルカンであることが明らかにされ、さらに私たちはβ-グルカンの側鎖の数が重要であることを発見しました。この側鎖の数は、菌類や植物の種類ごとに異なっており、側鎖が多いほど免疫機能を高める活性が強いこともわかりました。

 私たちが、黒酵母のβ-グルカンに着目した理由は、細胞壁を構成しているものよりも側鎖が多いβ-グルカンを「細胞外に分泌」していたからです。この分泌されるという特徴は、これまで煩雑で収量も不安定であった細胞壁からのβ-グルカンの抽出方法とは異なり、容易に培養液から高純度で精製することが可能です。さらに、黒酵母のβ-グルカンは機能性食品として商品化されており、ヒトへの安全性も十分に確立されています。

 現在、黒酵母由来β-グルカンは、粘度が極めて高いことから濃度を高めたり乾燥したりすることが難しく、低濃度の液状製品として商品化されています。そこで私たちは、粘度を下げることによりβ-グルカンの乾燥や高濃度化を可能にすることを目的として、特殊な粉砕機で低分子化を行いました。そして、この低分子化処理をした黒酵母由来の免疫調節活性を測定したところ、大変興味深いことに「高分子では免疫機能を活性化(免疫賦活)」し、低分子化すると反対に優れた「抗炎症活性」を示し、さらに「抗がん活性」もあることを発見しました。

 本研究の成果により、低分子化した黒酵母由来β-グルカンを日頃から経口摂取することで「炎症性疾患」や炎症により惹起される「メタボリックシンドロームのような生活習慣病」、そして「がん」に対する予防効果が期待されます。
 

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