マクドナルドの食の安全対策
齋藤 毅
昨年以降、中国や台湾で食の安全をめぐる問題が相次いで発覚している。今回は中国で7月に発覚した「期限切れ肉」問題を素材に当事者がどのような対策をとろうしているのかについて、要点を報告しておきたい。
日本マクドナルドによる食の安全対策
7月20日日本マクドナルドホールディングス(以下日本マクドナルド)が取引していた中国の仕入先企業(食肉加工会社)が使用期限切れの鶏肉を使っていたことが判明した。この問題の影響により、同社は既存店売上高が前年同月比で、7月は17.4%減、8月は25.1%減、9月は16.6%減と大幅に落ち込んだ。中でも8月の減少幅は2001年7月の上場以来最大の落ち込みであったという。
この「期限切れ肉」問題をめぐる日本マクドナルドの対応は様々に新聞などで報じられているが、その代表的な取り組みは次の二つである。仕入先企業に対する(ア)抜き打ち監査と(イ)監査レポートの提出の2点である。(ア)は「肉や野菜などの仕入先に年2回抜き打ち監査を始める」というものである。この「抜き打ち監査の対象は、牛肉やレタスなど主要食材を扱っている約30社」であり、「日本マクドナルドと第三者機関がそれぞれ年1回以上実施する」という。従来から監査は存在したが、「予定日を知らせていた」。これに対して、「予定日を知らせない」抜き打ち監査の導入により、「予定日を知らせていた」従来の仕組みに比べ、より「品質管理を強化」しようとしている。他方、(イ)の監査レポートの提出は「仕入先に対して、原料を調達している企業などに定期的に監査することを義務付け」るというものである。当該仕入先に「その結果をまとめた監査リポート提出も求める」ことより、当該仕入先のみならず、その「原料調達先が、マクドナルドの定める管理基準をクリアすることも求め」ている(『日本経済新聞』2014年10月4日)。
このように、直接の仕入先だけではなくて、原材料の調達先にまでさかのぼり監査を徹底して品質管理を強化しているのである。
仕入先企業独自の食の安全対策
以上は発注先である日本マクドナルドによる安全性や品質の管理体制の強化の取り組みであるが、安全性や品質の問題は、結局は、実際に物づくりを行っている(仕入先企業の)工場の現場のモラルに委ねられる面が大きい。
この点にかかわって、注目したいのが、使用期限切れの鶏肉を使っていた中国の加工工場で働いていた元従業員の次のような話である。同工場で働く従業員の仕事の内容は「室内温度4度という劣悪な環境下で」「保温服に防護具区を重ね、マスクに手袋の重装備をし、」「管理マニュアルが求める細かいルールに従」わなくてはならないというものであった。しかし、そうした労働負荷が課されるにもかかわらず「まじめな働きぶりを発揮したとしても、手にする月給はたった2000元(約3万2000円)でしかなかった。」従業員個々人の働きぶりに報いる動機付けや賃金インセンティヴを欠いているのである。だから同工場から「多くの従業員が離れた。」例えば、かつては安全性や品質に関して「厳しく指導する先輩」がいたが、徐々にこの人々「も姿を消し」た。また「新規採用の従業員も定着せずに辞めて行った。」(『DIAMOND on line』2014 年8月1日)
同工場は徹底した人件費コスト抑制を追求してきたために、従業員から最低限の協力しか確保し得ず生産現場の安全性・品質への対応が疎かになったというわけである。専ら人件費のコスト最小化を追い求めてきた経営者たち(同工場の経営陣、その上の米国にあるOSIグループ本社の経営陣を含めて)は、この問題に対しいかなる方策を用意しているのであろうか。
日本マクドナルドは確かに「期限切れ肉」の問題が発覚した直後に当該仕入先企業との取引を全面停止した。だが、この食品の安全衛生問題は当該企業に限った話ではない。中国国内の他企業、ならびに中国以外の国々(日本を含む)でも、程度の差はあれ、有り得る問題である。
日本マクドナルドが再び同様の問題をおこさないようにするためには、上に紹介した発注先(この場合、日本マクドナルド)による管理体制の強化だけではなく、仕入先それ自体の管理体制の強化の推進も不可欠である。企業間取引関係から(企業内)雇用関係を含めた全体の体質改善問題として受けとめなくてはならないからである。
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