地方創生政策に求められる「長期・総合的な検証と修正」

井上 武史

2015年末を迎えたので、筆者の研究領域である地域政策の分野で今年を振り返ってみることにしたい。さまざまな出来事があったが、「地方創生の本格的な取り組み」が1つの重要なトピックであろう。昨年末に国が「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定したのに続き、今年は多くの地方で、それぞれの人口ビジョンと総合戦略が策定された。

こうした一連の取り組みを「地方創生政策」と呼ぶとすれば、地方創生政策はその進展とともに、さまざまな点から議論されてきた。地方創生政策の意義として「地方消滅」という危機意識の醸成につながった点が挙げられたり、問題として国の主導や補助金依存など地方の自主性が不十分な点が挙げられたりしている。それぞれの議論に意味はあると思われるが、最も重要なのは地方創生政策が結果に結びつくのかどうかであろう。「終わりよければすべてよし」とは言い過ぎかもしれないが、結果が得られなければ「地方消滅」が待っているとすれば、結果を求めないわけにはいかない。

ところで、政策の「結果」がクローズアップされる契機となったのは、1990年代に普及した政策評価である。今では当たり前に言われるようになった「PDCAサイクル」も、政策評価の普及によるところが大きい。従来の政策は、計画(Plan)と実行(Do)の部分すなわち予算の編成と執行が重視され、その結果を検証(Check)して、より高い効果が望める形に修正(Action)する過程は必ずしも十分とは言えなかった。政策評価は、結果を重視することで新たな政策形成の枠組みをもたらしたのである。

政策評価が普及して四半世紀近くが経過し、政策の結果が問われるようになったことは、地方創生政策にも活かされている。一般的に政策評価では結果が客観的な数値で表されるが、地方創生政策でも5年後の基本目標やKPI(重要業績評価指標)の設定が求められている。また、行政活動の結果として住民にもたらされた便益(アウトカム)を把握するために、施策ごとの進捗状況を検証するための指標が重視される点も共通している。PDCAサイクルの実施も地方創生政策に明記された。政策評価の普及・定着が地方創生政策推進の基盤になっていると言っても良いだろう。

しかし、地方創生政策には政策評価の枠組みを超える部分があり、それがきわめて重要である。本題に掲げた「長期・総合的な検証と修正」である。

一般的に、政策評価では個々の事務事業について単年度もしくは5年程度(総合計画等の期間)の期間で結果が検証され、政策が修正される。地方創生政策でも個々の政策については基本目標やKPIが5年程度の期間で検証・修正されると思われるので、この点は共通している。しかし、地方創生政策で最も重要な結果は人口であり、最終的な結果は(目標ではないかもしれないが)人口ビジョンに掲載されている2060年の状況である。人口は特定の政策で決まるものではないし、政策だけで制御できるものでもないだろう。しかも、これから約半世紀という長期間にわたって、最も重要な結果として把握しなければならない。こうした取り組みは政策評価にはない「未開の地」である。政策評価で実践されてきた「検証と修正」を「長期・総合的な」形で行うことは、地方創生政策の重要な課題と言えるだろう。

地方創生政策が成功するのか、それとも失敗に終わるのか-すでに議論百出の状況であるが、個々に見れば効果の高い政策もそうでない政策もあるかもしれない。政策とは別の要素が重要な影響を与える可能性もある。重要なのは「人口」という最も重要な結果に対して、「長期・総合的な検証と修正」を来年から粘り強く続けていくしかない、ということではないだろうか。

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