財政における「受益と負担」を考える

井上 武史

消費税の税率引き上げが延期され、ひとまず家計の税負担は増加を免れた。依然として景気回復への力強い動きが見られない中で税率を引き上げるのは、家計消費をさらに抑制させる可能性が高い。その意味で、今回の判断はやむを得ない面があったと考えられる。

しかしながら、一方で十分な行政サービスが提供できなくなった点も見逃すことはできない。財源(負担)が確保できなければ、支出(受益)もできない、ということである。消費税の場合は福祉に重点が置かれているため、福祉に関する支出が見送られることになる。

このように、財政においては「受益と負担」が一体である。これは誰もが認識していることだろう。しかし、問題は受益者と負担者が必ずしも一致していない点にある。消費税の場合は、主な受益者は高齢者層であるのに対して、主な負担者は勤労者層である。当然のことながら、受益は大きくしてほしいであろうし、負担は小さくしてほしいであろう。だから、財政に関しては受益と負担をめぐる分断が起こりやすくなる。

先日、井出英策ほか『分断社会を終わらせる』(筑摩選書)を読んだ。まさにこの問題に関して述べたものであり、その副題にあるように「『だれもが受益者』という財政戦略」を提唱している。すなわち、受益者と負担者の範囲を広げて、受益者と負担者を一致させるということだ。逆に言えば「『だれもが負担者』という財政戦略」でもあるだろう。受益が実感できるからこそ、負担も受け入れるのである。

このことに関連して、筆者は敦賀市道路照明灯地元負担導入検討委員会に参画した。これは、市内における道路照明灯の設置や運営にかかる費用負担を地元住民に求めるかどうかを検討する会議である。従来は市がすべて負担していたのだが、今後は地元に一部の負担を求めることになった。道路照明灯は生活に欠かせないものであり、すべての住民が受益者である。しかし、その利益は実感していても誰が負担しているのかを知っている住民はきわめて少ないと考えられる。会議では、まず住民に負担の意識を持ってもらうことを重視し、少しずつ負担の割合を上げていくことを決めた。

この会議の経験と前掲書から、財政における受益と負担をめぐる分断について2点述べることにしたい。第1に、税と行政サービスはすでにあらゆる国民・地域住民に及んでいるから、現在でも「だれもが受益者」であると同時に「だれもが負担者」となっている、ということである。したがって、まず重要なのは受益と負担の現状を明確にすることであろう。

第2に、自治体こそ受益者と負担者の一致を図りやすい場になる、ということである。筆者はいくつかの自治体の行政評価に参画しているが、市民の多くが行政サービスの充実を求めると同時に、負担の増加もやむを得ないと感じている。一方、国の行政評価(行政改革等)を見ると、多くが行政サービスの削減や廃止を求め、負担の増加を食い止めようとしている。この違いは、自治体の行政サービスが身近であるために受益と負担を一体で捉えやすいことを示しているように思われる。前掲書でも自治体の役割が強調されているが、それは現物給付の主体として自治体が的確と考えているからである。それだけでなく、受益者と負担者の一致を図るうえでも自治体が重要な役割を果たすのではないか。

消費税の税率引き上げは見送られた。しかし、基幹税を見直す以上、税体系全体での位置づけが必要である。この期間は、景気回復を図るだけでなく、財政における「受益と負担」を考えるための猶予と捉えることにしたい。

 

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