新しい将来人口推計
丸山 洋平
人口減少、少子高齢化という言葉を日常的に目にするようになって久しく、またそうした現象が地域差を伴って進行していることも相まって、将来の人口がどのように推移していくのか、すなわち将来人口推計の結果には、とりわけ近年大きな注目が集まるようになっている。将来人口推計はどのような場面で必要になるかを考えると枚挙に暇がない。年金・医療・介護保険、あるいは生活保護といった社会保障制度の設計とそれに係る費用の算出には将来推計人口が利用されるし、電気・ガス・水道といった公共インフラ整備からごみ収集といった公共サービスの計画設定にも地域別の将来推計人口が重要な役割を果たしている。また少子高齢化の進行具合の見通しがなければ、保育園の増設や小中学校の統廃合の議論は進まないし、医療・介護サービスの提供に必要な施設や従事者の需要も予測できない。コンビニ出店や大型の商業施設の設置等も地域別の将来人口がわからなければ方針を立てられないだろう。
日本では国立社会保障・人口問題研究所が公的な将来人口推計を公表している。同推計結果は厚生労働省の公的年金財政検証、内閣府の経済財政モデルをはじめとして各種政策・計画立案に利用されている。そういった利用の観点から言っても客観性・中立性が求められており、それらを担保するように科学的な推定がなされている。それは人口投影(population projection)と呼ばれ、端的に言えば、これまで見られた変化が今後も続いていくと仮定した場合のシミュレーション結果であり、直近の人口変動を見落とさず、それを推計に織り込むことで将来の人口変動の仮定をブラッシュアップしてきている。
国勢調査の結果が公表される度に、その人口を基準とした新しい将来人口推計が公表されてきたが、2015年国勢調査を基準とした推計結果の公表が遅れているようだ。国勢調査は西暦の下一桁が0と5の年の10月1日時点の調査として実施され、将来人口推計に必要となる男女・年齢別人口を含む人口等基本集計結果は、翌年の10月頃に公表となる。その後、推計結果が公表されるが、過去の全国の将来推計人口の公表時期を見ると、1995年国勢調査による将来推計は1997年1月、2000年国勢調査は2002年1月、2005年国勢調査は2006年12月、2010年国勢調査は2012年1月であり、人口等基本集計結果の公表から2から3か月のうちに公表されている。しかし、2017年2月中旬時点で2015年国勢調査による将来人口推計結果は公表されていない。この将来人口推計は、厚生労働省の社会保障審議会人口部会にて議論されているが、2016年12月2日の第18回の開催が最後となっており、新推計の基本的な考え方が提示されているにとどまっている。そこでは推計上の新しい視点として、未婚率のさらなる上昇、出生率の将来仮定値設定における婚前妊娠初婚・出生の分離による精緻化、高齢死亡率改善の緩和等があげられており、推計方法の改良に伴う推計結果の安定性の確認に時間がかかっているものと推察される。
こうした直近の変化の検討があるものの、人口変動の大きな流れに変化はなく、さらなる少子高齢化、人口減少が進行するという将来推計結果が得られるだろう。人口動態に大きな変化はないが、それを取り巻く状況はこの5年間で大きく変化してきた。政府は一億層活躍社会実現のために出生率の大きな上昇を掲げているし、日本創成会議の「ストップ少子化・地方元気戦略」に端を発する地方創生の潮流の中で、各地方自治体がやはり出生率が大きく上昇する将来仮定に基づいた将来推計人口を地方人口ビジョンにて提示している。ところで社会科学における予測の目的とは、将来実現する状況を言い当てることよりも、現在の状況と趨勢が続いた場合に帰結する状況を示し、今取るべき行動についての指針を提供することにある。そうした視点からすると、地方人口ビジョンの将来人口推計は人口現象に対して政策等を通じて働きかけ、良好な結果が得られたケースであり、客観性のある人口投影ではなく目標人口としての性質を強く持つものと解釈できる。しかし、その実現性や蓋然性については疑問があり、政策や計画立案の根拠とするのに適しているとは言えない。
国立社会保障・人口問題研究所は全国の将来推計人口を公表した後、都道府県別・市町村別将来推計人口を公表する。恐らくは、かなり厳しい将来の見通しが提示されるであろうし、悲観的な意見も多く見られることになるだろう。しかし、それは一つの現実であり、真摯に向き合うべきである。目標人口を設定すること自体が悪いわけではないが、希望・願望に傾いて過度に大きな将来人口を想定することで各種事業規模が過大となって将来世代に大きな負担を残すことにもつながりかねない。各地方自治体が作成した地方版総合戦略は5ヵ年の計画であり、新しい将来推計人口はその期間内で得られることになる。人口投影としての将来人口の見通しの変化もフォローしながら、フレキシブルな対応をしたいところである。
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