マレーシアのデジタル自由貿易区の設置
1980年代以降のマレーシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内経済協力や自由貿易地域、経済共同体構想の下で近隣国の輸入物品関税の削減・撤廃を進め、自国製造業の発展を図ってきた。
たとえばテレビの場合、ASEAN域内の貿易額は2001年に4,103億ドルであったが、2015年には1兆5,836億ドルと、約3.8倍増加した。同時期の製品貿易収支を見ると、マレーシアの貿易黒字は1,952億ドルから8,791億ドルへと約4.5倍拡大した。2015年においては、526億ドルの貿易黒字を記録したインドネシアを除くと、他のASEAN加盟8カ国は貿易赤字に留まっている。マレーシアは一部の製造業において、ASEAN全域をカバーする一大生産・輸出国となっている。
その一方で、近年のマレーシアは製造業に限らず他の産業についても他国との連携強化に努め、産業育成と輸出振興を図ってきた。その典型例がデジタル自由貿易区の設置である。
ASEANでは今日においても多くの購入・支払いの際に現金が利用され、デジタル決済の比率は約4分の1に過ぎない。今後人口が拡大するとともにインターネット利用者の増加が見込まれることもあって、ASEANは電子商取引およびデジタル決済の「ネクスト・フロンティア」と位置づけられている。
急成長が期待される域内電子商取引のハブとなるべく、マレーシア政府は直近1年で施策を相次いで打ち出した。2016年11月に、ナジブ首相が中国・アリババのジャック・マー会長と会談し、デジタル経済推進担当の政府顧問に就任することに合意した。17年3月には、同氏が提唱する「電子世界貿易プラットフォーム」を活用したデジタル自由貿易区をクアラルンプール国際空港周辺のローコストキャリアターミナル旧跡地およびセランゴールのセパンに設置し、同年11月には稼働を開始した。アリババは「電子世界貿易プラットフォーム」を通じて、物流、クラウドコンピューティング、モバイル決済などのサービスを提供するためのインフラをマレーシア企業に提供する。
このデジタル自由貿易区の整備を進め、ASEAN域内で72時間以内に国境を越えた商品の移動が実現すると、受注、梱包、発送、受け渡し、代金回収までの一連のプロセスがマレーシア国内で行われる。
マレーシアのデジタル自由貿易区は、中国国外では初の「電子世界貿易プラットフォーム」機能を備えたエリアである。今後は欧州やロシアにも同様のエリアが構築される予定であり、ASEAN域内だけでなく域外に向けてもマレーシアからの輸出拡大が期待される。2018年には、マレーシアの商品や文化を中国の消費者にオンラインで宣伝する「マレーシア週間」の開催がすでに決定している。
デジタル自由貿易区が持つもう一つの重要な側面は、中小企業開発である。マレーシア企業の98.5%が中小企業であり、経済の主要エンジンとなるべきであるが、国内総生産への貢献率は40%に満たない。そこでマレーシア政府は、小売業を中心に中小企業に対してデジタル自由貿易区への参画を呼び掛けた。2017年11月時点では、当初の目標を大きく上回る1,972社もの中小企業がデジタル自由貿易区に登録している。2025年までには60,000人の新規雇用の創出が見込まれており、中小企業の輸出額は380億ドルに伸張すると予測されている。
デジタル経済に迅速に対応し、中国企業の支援を仰ぐことで、電子商取引の集中都市がマレーシアに形成され、同国における雇用創出と他国への輸出増加が予想される。現地に進出する日本の物流企業や小売企業にとっても、大きなビジネスチャンスをもたらすであろう。
※本稿の執筆にあたっては、New Straits Times 2017年11月4日記事「DFTZ, an idea whose time has come」と「Jack Ma pledges to help turn Malaysia into a regional digital powerhouse」、マレーシアデジタル自由貿易区のホームページ「DFTZ Goes Live」(https://mydftz.com/dftz-goes-live/) を参考にした。
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