「フィールド」から学ぶ

福井県立大学 経済学部 教授 北島啓嗣

 夏である。夏は、大学の学生にとっては講義がなく、あちこちに行って経験
を積むことが可能な季節である。企業あるいは官公庁等に勤める社会人にとっ
ても、夏はプライベートを含めて、あちこちのフィールドに行くことが多い季
節であろう。私も、福井の発展にとって有用と思われるフィールドをいくつか
はこの夏、見に行く時間を取りたい。
 観察、視察をするというのは非常に重要である。社会人は、出張というかた
ちで現場、フィールドを見に行っている。例えば、ベテランの企業の人達は、
工場とかお店の現場を見て「こことだったら取引できる、貸せる、こいつだっ
たら駄目だ」と、現場の雰囲気という様な観察の目を育てて、それで最後は人
が判断する。
 フィールドから得られるのは、不定形の、わかりにくい情報である。学生に
よく話すネタだが、ねずみの絵のイラストを元にお金を貸せますか、投資を出
来ますか、という話をする。君らが銀行マンだったとして、ねずみの絵を持っ
て来て「これ良い絵でしょ、これでちょっと事業を興したいんですけど、お金
貸してくれますか、もしくは投資してくれますか」といわれた場合どう判断す
るか。普通は財務諸表がありますか、土地の担保がありますかとか、で判断す
る。ねずみの絵といった不定形のわかりにくいものでは貸せない。でも実際に
貸した人、投資をした人がいる。
 借りた方は有名人なので皆さんもご存じだろう。借りた方の人はウォルト・
ディズニー、ねずみはミッキーマウスである。
 AIが発達したとしても、AIにねずみの絵を読み込ませて、売れるかどう
かの判断は無理であろう。最終的には人の目、視察、不定形な情報というもの
で判断する。これは100年以上前の話だけど、これからの我々はAIに対抗し
ないといけない。その為には、現場の不定形のわかりにくい情報から判断する
力を養う必要があるのだろう。ねずみの絵に投資することを決断したアーカン
ソー州の投資家のお金を元にして、ミッキーマウスの最初の映画が出来た。
 学生はフィールドワークが大好きというのがあるのだけど、半分位楽しそう
とか、楽そうというイメージが無いわけではない。本を読むのは苦痛、理論は
つまらない、だからフィールドワークという。
 ところが、フィールドワークや視察は結構難しい。見てその何をみるべきか
が分かるか。何を見ることかがわかったとして判断できるか。重大な結論、決
断、例えばお金を貸せるかといった事、新規のビジネスを立ち上げるというこ
とに対して、自信を持ってこのポイントでこう見たからこう言える、という様
な事は出来るか。
 学生は会計や統計などは難しそう、フィールドワークは簡単だと思う場合が
ある。しかし、統計や会計というのは、物事を分かり易くする為の技術である。
見方がわかれば、誰でもわかる。わかるように発達、発展してきた。
 フィールドワークのフィールドは「野生の情報」、わかりやすくする為の加
工が全くされていない原野だから、それを見て何かを判断するのは結構きつい
世界である。しかし、それが出来る人材が社会には必要で、それがAIに負け
ない人材の一つのかたちであるだろう。

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