眠った蔵の活用

江川 誠一

農村や漁村には、収穫物の保存、道具類の収納等を目的とした蔵が数多く存在していた。各戸が所有するそれらの多くは、時代の変遷とともにその役目を終え、取り壊されたり、使用頻度の低い物置として放置されたりと、どちらかと言えば影に隠れた存在になっている。
小浜市内外海(うちとみ)地区には、リアス式海岸に抱かれた集落が点在し、いずれも漁業を主な生業としていた。かつては集落間の移動は困難を極めていたこともあり、各集落には蔵が立ち並んでいた。現在でも多くの蔵がところどころひっそりと残されており、小河川や小路とともに漁村集落固有の景観を形成している。
昨年度から、ブルーツーリズムをテーマにした海洋生物資源学部の集中講義を担当している。ブルーツーリズムとは、漁業体験や漁村での生活体験等を伴う漁村滞在型余暇活動を総称したもので、当該科目はこのような活動を、内外海地区において活性化させるための方策を検討・提案するものである。2年目の今年度は、現地での具体的なアクティビティを学生が実際に体験するなど、より実践型の内容とした。SUP(スタンドアップパドル)班と蔵班の2班に分かれたが、次に蔵班の内容を簡単に紹介したい。
蔵班は、内外海の釣姫集落の1つの蔵を対象に、その後片付け体験を通じて蔵の現代的な活用方法を検討した。6人の班員は、初めて入る暗く少し埃っぽい閉鎖空間にて、昔の道具や教科書、刀などを興味深く手にしながら整理をしていく。そして、その後の3回に渡るグループワークで、蔵の特徴や外部環境を共有しつつ、それを生かす方法を思い思いに語り合った。都会の子供の教育に活用する案、集落民と観光客の休憩場所にする案、ブックカフェや駄菓子屋として活用する案、ルアーやお箸づくり体験の場とする案等、多くのアイデアが出された。今後、地域住民等に対し発表する機会を作りたいと考えている。
このような蔵は、今ではあまり活用されておらず状態もよくない。マイナスとは言えないまでも低未利用な地域資源である。このハコを学生が「オシャレ」だと捉え、自分たちの感性と行動力によって新しい価値を付加し、プラスの地域資源として昇華させていくことを期待したい。学生が影に隠れた蔵に光を当て、まだまだ荒削りな案ではあるものの、このアイデアからスタートし当事者の前向きな意識改革や積極的行動へと結び付けば、思いも寄らない化学反応が起きるのではなかろうか。

 

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