「農協改革」に思う
北川 太一
最近、「農協改革」という言葉を耳にする方も多いと思う。それは、2015年に行われた農協法改正を指すことが多く、主たる内容は次のとおりである。
(1)農協の目的を「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」とし、経済事業であげた利益を「事業の成長発展を図るための投資や事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない」と定めた。
(2)理事の構成要件を、過半数が「認定農業者または農産物販売・法人経営に関し実践的能力を有する者」とした。
(3)選択により組織の分割や株式会社等への変更が可能となった。
(4)中央会の法律上の規定を削除し、都道府県中央会は連合会に、全国中央会は一般社団法人に移行するとした。
(5)一定規模以上の信用事業を行う農協に対して、公認会計士または監査法人による会計監査を受けなければならないとした。
また、今回の改正では見送られたが、(6)准組合員(農地を所有・耕作する「正組合員」に対して、農協事業の利用を望んで出資をした農業に従事していない組合員)の事業利用に上限を求めることも検討課題となっている。
実は、今回の「農協改革」は、政府の規制改革会議等における議論に端を発しており、必ずしも農協関係者が主体的に決定したわけではない。そこでは農協の将来像を、上記の①(2)ならびに(6)に顕著なように、農業面の経済事業に特化し、運営者や組合員を農業者(関連事業者を含む)に純化した農業専門事業体として展望したものである。つまり、次のような考え方に立つ。農協は「農業」協同組合である。農協を構成すべき組合員は、農業所得に大きく依存している農業者・事業者であって、農協はそこに貢献する事業のみに注力すべきである。農地を所有せず耕作もしない准組合員は農協から制限・排除されるべきであり、信用事業や共済事業も民間企業等に委ねるべきである。
はたして、これが正しい方向であろうか?一見、農業者の所得増大や地域の農業振興とは無関係に思える事業が、実は地域のセーフティネットの役割を果たしながら農業者や地域住民の暮らしの安定を支えていること、農協における組合員や職員が有する顔の見える関係性が地域に密着した事業の基盤となって堅実な信用・共済事業の展開を行い得たこと、それらが非収益(サービス)部門である営農指導事業や農業施設の整備、採算性で劣る農畜産物の販売や生産資材の購買事業を下支えしながら地域の農業振興に貢献していることを見逃してはならない。
そもそも協同組合は、自分たち組合員さえ良ければではなく、組合員が居住し組合が存在する地域社会の発展こそが豊かな暮らしの実現につながる、という理念を持つ。大雨被害等のニュースの中で、農協の支店が避難所として活用され、生協の職員がエレベーターの止まったマンションの階段をかけ登りながら生活物資を届け、組合員・女性部員らが炊き出しボランティアに励む映像を目にした。「生活インフラ機能」としての農協・協同組合の役割を軽視してはならないとつくづく思う。
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