近年の国際交渉から見る「貿易と環境」について

 杉山 泰之

1.環境物品の貿易自由化を巡る国際交渉から
 2011年11月APECにおいて、2015年末までに対象となる環境物品の実行関税率を5%以下に削減することが合意された。そして、2012年9月、関税番号6ケタの分類ではあるものの、環境物品54品目が定められた。また、2014年7月には、日本だけでなく、米国、EU、中国などを含むWTOの有志国14か国・地域の間で環境物品交渉が立ち上げられている。
 APECで合意されたリストに沿って日本の環境物品貿易を確認すると、54品目が定められる前の2011年には339億2718万9千ドルの貿易黒字であったのに対して、関税削減の目標期間が終了した後の2016年には190億2438万9千ドルの貿易黒字となっている。つまり、依然として環境物品の貿易は日本の強みの一つであるものの、貿易黒字は縮小していることが分かる。
 日本にとって貿易額(輸出入額の合計)が大きい環境物品は、上から順に、太陽光パネル、セル(HS:854140)、選別破砕機関連機器(HS:847989)、太陽光反射鏡(HS:901380)であるが、2011、2016年共に大幅な貿易黒字となっている品目は、上記の選別破砕機関連機器、太陽光反射鏡に加え、蒸気タービンの部分品(HS:840690)などである。また、発電関連機器(太陽光、バイオマス、潮力等)(HS:850239)も2016年については大幅な貿易黒字となっている。
 一方、2011年の段階で既に貿易赤字となっていた品目は竹製品(床パネル)(HS:441872)、風力発電機(HS:850231)などの6品目である。また、2016年については最も貿易額の大きかった太陽光パネル、セルに加えて、大型発電用ガスタービン(5000Kw超)(HS:841182)、液体のろ過機(排水処理)(HS:842121)などの6品目も貿易赤字に転じている。これらの6品目では中国、韓国、台湾向けを中心に輸出額の減少が見られた。
 日本の環境物品の貿易黒字は、対APECで見ると世界全体よりも多少大きい傾向にある。そのため、この分野の貿易に関しては、EUを始めとするヨーロッパ諸国との貿易動向を含めて、今後も強みを発揮していけるかどうかを見ていく必要があるだろう。

2.地球温暖化を巡る国際交渉から
 2018年12月15日(日本時間16日)に2020年以降の地球温暖化対策の在り方を定めた「パリ協定」の実施ルールが採択された。今後は、先進国から発展途上国への資金援助や技術支援を活用しつつ、共通のルールの下で温室効果ガスの排出削減に取り組むことになる。
 貿易自由化が温室効果ガスなどの排出に与える影響は、(1)排出係数の変化が排出量に与える効果(技術効果)、(2)貿易自由化前と生産規模(実質GDP)の水準が同じであったとしても、各財の生産構成の比率が変化することによって排出量が変化する効果(構成比効果)、(3)実質GDPを変化させるような生産量の変化が排出量に与える効果(規模効果)の3つに分類される。
 WTOによると2016年の世界の貿易額(輸出入額の合計)は32兆3309億1200万ドルとなっており、1948年のGATT発足当時と比べると、200倍以上増加している。日本は省エネ技術に強みを持つとされるが、温室効果ガスを削減・抑制するためには、技術効果が規模効果や構成比効果による排出増を上回っていけるかどうかが一つの鍵となる。
 また、貿易の増加に伴う国際輸送からの温室効果ガスの排出についても対策が必要である。例えば、2014年の国際海事機関(IMO)の調査によると、2012年の国際海運輸送からのCO2排出量は7億9600万トンとなっており、同年の日本1国分の排出量の約64%に達する。
 しかしながら、国際輸送に伴う排出規制は、(ⅰ)公海、領空外などの関係で国や地域の特定が困難なこと、(ⅱ)海運の場合、 船籍、船主、海運事業者、荷主、寄港地など様々な主体が存在すること、(ⅲ)空路の場合、必ずしも最短コースを移動しないという距離の計測の問題などがあり、IMOと国際民間航空機関(ICAO)それぞれの対応や、輸送を担う企業の自主的な排出削減努力に委ねられているというのが現状である。国際輸送からの温室効果ガスの排出についても、国際的な制度設計が求められている。

 今後も、貿易からの利益を享受しつつ環境をも保護する、相互支持的な道を探求していきたい。

<参考文献、データ等>
・温室効果ガスに関するデータ「国立環境研究所, 日本の温室効果ガス排出量」
・環境物品に関するデータ「International Trade Centre, Trade Statistics」
・世界の貿易額に関するデータ「WTO Statistics on merchandise trade」
・IMO, Third IMO Greenhouse Gas Study, 2014.
・環境省、「国連気候変動枠組条約第24 回締約国会議(COP24) (概要と評価)」、2018年12月15日。
・経済産業省、「2016年版不公正貿易報告書」、2016年6月。
・吾郷伊都子、「環境物品自由化で輸出拡大へ」、ジェトロセンサー、2013年4月号。
・寳多康弘、「国際輸送部門における環境政策に関する経済分析」、RIETI Discussion Paper Series 13-J-061、2013年9月。

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