オーナー経営者一族の核家族化は、事業承継に影響を与えるのか?
杉山 友城
少し古くなるが、2017年11月19日の日刊工業新聞に、以下の記事が掲載された。
「事業承継問題をこのまま放置すると2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性がある―経済産業省・中小企業庁が衝撃的な試算をはじき出した。今後10年で70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人。うち約半分の127万人が後継者未定だという。大量廃業の危機が目の前に迫り「大事業承継時代」を迎えた日本」というものだ。
650万人というと、福井県の人口に相当する数の雇用が、今後8年程継続して消滅していくということになる。
他方、福井県にとっては、興味深い資料も公表されている。2018年11月13日に帝国データバンクが公表した「全国「後継者不在企業」動向調査(2018年)」の結果だ。
日本企業の後継者不在率は、全国平均66.4%と言う。およそ3社中2社が「後継者がいない(未定)」ということになる。そうした中で、これをエリア別に見ると、際立って後継者不在率が高いエリアは「北海道(73.5%)」、一方で、「四国(52.8%)」が最も低く、北海道と四国では20.7ポイントもの格差が生じてる。では、北陸エリアや福井県の状況はどのようになっているのだろうか。
北陸エリアの後継者不在率は58.2%、福井県は58.7%だ。ちなみに、富山県は59.9%、石川県は50.1%である。北陸エリアや福井県は、「後継者がいない、または未定」という会社が、全国に比べると少ないということを、この結果は物語っている。
ここで浮かび上がる疑問は「なぜ福井県の後継者不在率は、全国水準を下回っているのか」ということ。他方、「福井県や北陸エリアの後継者選定と決定の方法を調べることで、事業承継問題を解決に向かわせるヒントが得られるのではないのか」という興味関心が湧いてくる。
先般、家業を継いだ嶺南の後継経営者2名と話す機会があった(その場には、地域産業・企業支援機関の事務局長、独立した社労士の方、これから家業を継ぐために、県外から戻ってきた後継経営者候補の方もいた)。
この2名が共通して発したコメントが、実に興味深かった。事業承継の支援を行ってきた筆者の肌感覚では、後継候補(ここでは、娘・息子に限ってだが)に会社を継ぐことを決断させるには、「幼少期からの刷り込みが大事」という意見と、「娘・息子の人生なのだから、一切、継ぐことを促したことがないけれども、決断してくれた」という意見に二分している。そこで、2名に、家業を継ごうと決断した理由を尋ねたところ「将来、会社を継いでほしいという両親の言葉よりも、幼少期から日常的に祖父母から継いでほしいと、言われ続けた
ことが影響している」のではないか、と言うのだ。
ここでひとつの仮説が設定できる。「福井県の三世代同居率の高さが、後継者不在率の低さに影響を与えているのではないのか」ということである。
だから「三世代同居がいい」や「祖父母が幼少期から刷り込むことがいい」と主張したいわけではない。仮説を検証するために、福井県企業の事業承継の実態を調査し、分析することに意味があり、加えて、この検証作業を通じて、福井県は無論、日本の後継者不在率を低くする方策が何か示唆を得ることができるのではないかと、感じずにはいられない。
日本の事業承継問題を解決に向かわせるモデルを、福井県から全国に発信できるのではないかと思うばかりである。
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