-新型コロナウイルス感染拡大の危機を越えて-
南保 勝
4月16日、政府は新たに40道府県に対して緊急事態宣言を発令した。世界中で新型コロナウイルス感染症が広がる中、既に対象となっている東京都など7都府県を合わせ、これで日本全体が緊急事態下に置かれたことになる。期間は来月5月6日までとなっているが、果たして終息の目途がつくか否か疑問の残るところではある。
ところで、この新型コロナウイルス感染症は、中国の湖北省武漢市の保健機関により原因不明の肺炎患者が報告されたのが始まりと言われている。日本での感染者確認は、今年の1月16日に入ってのことである。この日、日本国内の医療機関を受診した中国武漢市に渡航歴のある中国人男性が新型コロナウイルスに感染していることが判明した。4月17日現在、世界全体では患者数が215万8千人(死亡者数145千人)と200万人台を突破、日本国内でも9,309人(死亡者数191人)の患者数を数え、その動きは留まるところを知らない。
一方、新型コロナウイルス感染症による影響は、いったいどのような状況となっているのか。経済的、社会的に大きなダメージを受けていることは間違いない。
まず経済的課題について、ある国の経済学者は、この新型コロナウイルス感染拡大により、世界におけるGDPの2~3割が喪失すると述べている。では、具体的に産業間でどのような影響を受けているのか。一例として観光業の動向を見ると、昨年1年間で3,200万人が訪れた訪日外国人観光客数は、今年2月時点で前年同月比58.3%減の1,085千人、3月には同93.0%減の193千人(日本政府観光局調べ、3月推計値)に減少するなど悲惨な状況となっている。これに伴い観光関連産業の旅客運輸、宿泊施設、旅行代理店、各地の観光地は壊滅的なダメージを受けていることがうかがえる。無論、この負の連鎖は、一般の小売業、飲食サービス業、タクシー業、教育機関などの第3次産業に襲い掛かり、今のところ比較的ダメージが少ない製造業や建設業でも、その影響が広がっていくに違いない。そうなれば、中小・小規模事業所が多い北陸地方において、未曾有の打撃を受けることは必定である。例えば、福井県の場合、これまで内需がだめなら外需で、外需がだめなら内需でという具合にうまくバランスを取り、経済的にはバブル崩壊やリーマンショック時も日本全体と比べ比較的ダメージが少なく結構打たれ強い地域として知られていた。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症は、内外需両面での低迷により、福井県においても容赦なく経済的ダメージが拡大していくであろう。もはや新型コロナウイルス感染拡大による日本経済の低迷は必至であり、有無を言わさずそれに相応する経済対策が必要である。ただその場合、単なるバラ撒きではなく、終息後の将来を見据えた対策、例えば、生産性の低い福井県企業にとっては、業務のIT化や労働者のスキル向上などによる生産性向上を目指した支援策、或いはデジタル社会の到来を見据えた戦略的支援策が求められている気がする。そして、地域の企業は、この逆境をバネに業種転換や経営のスリム化を図ることを期待したい。ローテク産業からハイテク産業、都市型産業に切り替えていくチャンスの時と考えられないか。今やSosiety5.0の時代、AIやIOTといったデジタル技術革新の大きな波が押し寄せている。地域の企業には、今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機を何とか乗り越えて、次の時代を担う産業社会の立役者になってもらいたいものだ。
そして、もう一つ、大きな課題は社会的ダメージをどう押さえるかだ。医療崩壊、環境破壊、貧困、犯罪多発、教育システムの崩壊など、危惧する事象は山と積まれている。とりわけ命に係わる医療の現場は想像を絶する事態となっている。医療器材・病床や人手の不足、医療従事者に対する誹謗中傷、差別などとんでもない話を耳にする。今、私達一人一人ができること、それはコロナと最前線で闘っている医療関係の方々に敬意を払うこと、同様に幼児園の先生や児童館の先生など、一見目立たないところで社会的課題に立ち向かう方々にもっと敬意を払うこと、それが身近でできる一番の手立てではないか。
いずれにせよ、今、世界全体がコロナウイルスという目に見えない敵との戦いを強いられている。しかし、我々はこの敵に負けるわけにはいかない。何故なら、この戦いで得た知見、技術・ノウハウを活かすことで、経済・社会システム、働き方、暮らし方、思想、価値観など多様な面でのパラダイムシフトが起こり、もう一段進化した社会へと進むことができるのだから。
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