緊急事態が解除された今。企業は新たな入口に立たされた。
杉山 友城
4月16日に日本全域にまで対象地域が拡大した新型コロナウイルス感染に係る緊急事態宣言は、5月14日に39県、21日に3府県、そして25日(18時頃)に全面解除となり、私たちは新たな入口に立たされた。
さて、5月20日に東京商工リサーチが「新型コロナ」関連の経営破綻が全国で169件(2月2件、3月23件、4月84件、5月(1~20日まで)60件)に達したことを発表した。
業種別では、インバウンド消失に加えて、国内旅行や出張の自粛でキャンセルが相次いだ宿泊業が最多、次いで、緊急事態宣言で来客数の減少や臨時休業、時短営業の影響が響いた飲食業が多くなっている。
経営破綻した企業は、コロナ禍以前より業績不振が続き、人手不足や消費増税、そして、コロナウイルス感染症拡大の影響が決定打となって、資金繰りが厳しくなったケースが目立つ。全国的に経営破綻が広がる中で、幸いにも福井県はゼロ(5月20日時点。他、和歌山県、島根県、高知県、長崎県のみがゼロ)であった。ただ、倒産集計の対象外である負債1000万円未満の小規模・零細企業の倒産や事業継続を諦めて廃業を決断するケースは耳にしているし、今後、顕在化してもくるだろう。
過去のバブル崩壊やリーマンショックでは、金融資産の暴落に伴う金融機関や企業の損益計算書の悪化をきっかけにして、企業から消費者に影響が広がった。今回は、これらとは異なり、感染回避のための消費急減が直撃した。これを背景に、B2C企業と比較するとB2B企業への影響が限定的となり、第2次産業に特化している福井県では、影響が少なかったのかもしれない。
ただ、緊急事態宣言が解除された後の需要回復局面でこそ、企業経営においては気を引き締める必要がある。というのも、企業の資金需要は売上増加時期に増えるものであり、ある程度の資金的な余裕がある状態で回復局面を迎えなければ資金に困窮する。早期に売上を損益分岐点にまで戻さなければ、長期にわたる赤字や、廃業・倒産を招くことにもなる。
他方、一度減少した需要は、簡単には元に戻らないことも事実で、例えば、テレワーク等の急速な普及は、宿泊業や飲食業へのニーズの減少を維持させる。この影響が長続きすれば、当然、第2次産業への影響も出てくる。今までの財・サービスを提供し続けるならば、従来以上に固定費や原価を下げるか、単価や付加価値を上げなければならないし、新たな需要に合わせた財・サービスを産み出すか、ビジネスモデル自体を根本的に見直す必要がある。
私たちは、この数か月でリスクに対して敏感になった。感度が一気に高まった。「新たなウイルス」という情報が流れただけで、財・サービスや人の流れを抑制されることになるであろう。企業は、このような事態が発生することに備えた態勢を常に取り続けなければならない。サプライチェーンの脆弱さが露呈し、食料品などは、一部の国で輸出規制という保護主義的な動きもある。サプライチェーンの単純化や、需給に合わせた一定地域内でのモノの留め置きという動きも更に強まる可能性がある。
足元と、モノや人という実体(リアル)の移動が減るニュー・ノーマル(歴史的な大転換)という未来を見据えた舵取りができるのか。企業は新たな入口に立たされている。
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