新型コロナウイルス感染症による死亡の状況

江川 誠一

 4/7の緊急事態宣言発出から4ヶ月弱が経過し、様々な社会経済データが明らかになりつつある。我が国におけるコロナクライシスの影響を現時点で考察するにあたり、中でも最も重大な結果である死亡に焦点を当ててみたい。
 新型コロナウイルス感染症による国内での死亡者数は、7/28段階で998人である。これに関しては、欧米諸国と比べた人口当たり死亡者数の少なさや、毎年の季節性インフルエンザによる死亡者数と比べた水準の低さを指摘することができる。
 一方で、感染者が何らかの理由によりPCR検査を受けないまま死亡した場合、死亡診断書には感染の結果生じた他の疾患が死因として記録されることが起こり得るため、この感染症による死亡者数を正確に捉えることはできないとの声がある。国立感染症研究所では、インフルエンザに関してこれと同様の疑問に応えるための一助として、シーズンごとに超過死亡を推計している(注1)。インフルエンザが流行していなかった場合の死亡者数を推定し、実際の死亡者数との有意な乖離が生じた場合に、超過死亡が観察されたと判定している。
 この推計によれば、2019-2020シーズンにおいて全国の対象都市の合計で超過死亡は観察されていない。東京に限ると超過死亡が認められるものの、その水準は過去3シーズン並みかやや低い程度にとどまっている。この結果から新型コロナウイルス感染症による影響を厳密に評価することはできないものの、同感染症による一定程度の明確な埋もれた死亡者の存在は浮かび上がらず、先の数字が実態に近いとの推測が成り立つ。
 次に、間接的な影響をみるために自殺をとりあげる。我が国の自殺者数は2010年頃から前年比2~9%の減少傾向にあるが、2020年1~6月はその水準を超える減少となった(対前年同期比▲9.9%)(注2)。なかでも緊急事態宣言下の4月(〃▲18.0%)、5月(〃▲16.0%)は大幅減であった。
 近年の自殺の要因は、多いものから健康、経済・生活、家庭、勤務、男女、学校の順となっている。このうち新型コロナウイルス感染症に関係するものとしては、受診控えや運動不足からの深刻な健康問題、倒産や失業等の経済・生活問題、DVや虐待等の家庭問題などが考えられる。その他、人間関係が一時的に希薄化したことで、勤務、男女、学校を要因とする増減が生じている可能性もありそうだ。
 要因別、年齢別等の詳細な結果が示されないと正確な分析はできない。しかしながら、少なくとも現時点では、新型コロナウイルス感染症による自殺の増加は生じていないと言える。経済・生活問題を要因とする自殺は、あくまで現時点でのことではあるが、最低限の雇用が維持され会社も個人もなんとか食いつないでおり、増加にまでは至っていないことがうかがえる。現に、就業者数は大きく減ったが失業率は微上昇にとどまっている。また、巨額の雇用調整助成金とそれに伴う休業者の大幅増が、当面の支援策・対処法として機能していると言えよう。さらには、多くの業種や階層において、危機意識が共有化されたことによる連帯感が、まだ存在していることも大きいのかもしれない。
 直接・間接を問わず、新型コロナウイルス感染症による死亡数が、今後も低水準でおさまることを願いたい。そのためにも、まずは各所において感染拡大の防止と医療体制の一層の充実に努めつつ、新たなビジネスや生活様式に機敏に対応しながら、経済活動を冷静に元に戻していくことが重要である。さらには、この数ヶ月で発生・増幅した様々な格差や差別の解消に向けて、支え合う姿勢と具体的な支援策が求められよう。

P.S. 私が執筆するコラムはこれが最後になりました。9月末で任期満了を迎え、更新が叶わず退職となります。10年間、ありがとうございました。

注1:国立感染症研究所 感染症疫学センター「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」2020年5月24日掲載
https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/9627-jinsoku-qa.html

注2:警察庁「自殺者数」(2020年6月末の暫定値)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

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