大学生の就職におけるコロナ感染拡大の影響

中里 弘穂

 コロナウイルスの感染拡大及びそれに伴う様々な活動の自粛は、大学生、大学院生の就職活動にも多大な影響を与えている。
企業の大学生等への採用活動は、文科省の指導もあり表面的には3年次、修士1年次の3月に広報が解禁となり4年次、修士2年次6月から採用試験が開始される。まさに大学生の就職活動が本格的に開始される時期に、コロナの感染が拡大し、3密を避けるために学生が企業と接触する機会となる「合同企業説明会」等が相次いで中止となり、企業は一時的に採用活動を停止することを余儀なくされた。福井県でも県が主催する就職イベントや大学内で開催される企業説明会が中止になり緊急事態宣言が発令されると、大学や就職の支援機関も閉鎖されるところが多く、大学生は情報の入手と企業との接触機会を失い就職活動がストップしてしまった。
しかしながらここ数年、売り手市場と称されるように企業の採用意欲が高く、水面下で採用試験を実施し2月3月時点で内々定(正式な内定は10月なので、それ以前の内定を内々定と呼ぶ)を出す動きがみられた。つまり早期に採用活動を開始した企業や早めに動き3月前に内々定を獲得した学生は、コロナの影響をあまり受けずに済んだことになる。このことは2021年卒の内定獲得率の推移にも表れている。今年の4月1日時点の内定状況は、31.3%と好調で昨年の3月時点の内定率を10ポイント上回っていた(就職みらい研究所調査)。ところが6月時点になっても内定状況はあまり伸びない。昨年は65.3%であったが本年は56.9%と10ポイント程度低い状況だ。9月1日時点の内定率は85.0%と徐々に上昇してきているが、昨年に比べまだ8.7ポイント低い。
採用活動が一時的に停止しただけでなく、緊急事態宣言が解除されても需要の減少や売り上げの低下から採用そのものの見直しや停止も相次いだ。ANAやJALの採用停止はニュースで大きく取り上げられたが、運輸業、宿泊業、外食産業、製造業等で採用中止や採用数の抑制が発表されている。残念ながら卒業まで厳しい状況が続くとみられる。
コロナの感染拡大は、採用活動、就職活動の時期的な問題だけでなく、採用方法にも大きな変化をもたらした。これまでの採用活動は、対面を基本とし筆記試験、グループディスカッション、集団面接、1次2次面接のように進んでいた。当初は最終面接だけでも直接学生と会って決めたいという企業が多かったが、現在ではほとんどの企業がオンラインの面接で採用を決定している。この採用方法の変化は、学生、企業双方に移動時間と交通費、試験会場費等のコストの削減というメリットももたらした。Uターン学生は、大学の所在地近隣の企業も自分の出身地の企業もハンディなく受験することができる。最終試験に対面面接を取り入れるにしても、採用試験におけるオンラインの活用は来年以降も続くと予想される。
経済環境の悪化が大学生の就職に影響する例はこれまでにもみられた。2008年9月に起きたリーマンショックは、その後大学生の就職状況が悪化し就職氷河期と称されている。2009年3月卒業生はリーマンショック時にほぼ就職活動が終了しており、内定率は95.7%と前年に比べ1ポイント程度の低下であるが、2010年91.8%、2011年91.0%と大幅に低下し2012年から93.6%と徐々に回復してくる。次年度の新卒者の採用は夏から冬の時期に決定する企業が多いと聞く。コロナの影響もおそらく、今年度よりは次年度以降の学生の就職により大きく出る可能性が高く、その影響は2、3年継続するであろう。
実際に企業を回っている本学のキャリアセンターの担当者によれば、来年以降の新卒採用について(1)採用を中止する企業、(2)採用数を減少する企業、(3)なお採用意欲が高い企業があるという。採用意欲が高い企業においても、Uターン者を含め応募倍率は高くなり、競争は厳しくなる。
大学生にとっては、しばらく厳しい就職状況が続くと思われるが、withコロナの新しい生活スタイルが求められることと同様に、就職・採用活動においても新しい様式が出てくるかもしれない。これまでの就職活動は学生の時間的負担が大きかった。ただ悲観的になるだけではなく、企業・学生の双方によるオンライン、リモート等の積極的な導入が学業と就職活動を両立させ新たな出会いが生まれることを期待する。

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