「コロナ禍の人口、コロナ後の日本」
佐々井 司
コロナ禍のもとで人口動態が激変しています。
日本全体における出生数は、近年の減少傾向がコロナ禍においても継続しています。今年に入って登録される出生届は昨年の妊娠によって生まれてくる赤ちゃんがほとんどなので、コロナの影響がダイレクトに出生数に反映されるわけではありませんが、昨年の婚姻件数が多かったことからすると今年の出生数はもう少し多くなってもおかしくはありません。ちなみに、昨年の婚姻件数が多かった要因は“令和婚”によるものです。それでは、コロナ禍が出生動向にまったく影響を及ぼさないかいうと、そうとも言えません。今年5月以降の婚姻件数は一昨年と比べても大幅に減っており、来年以降の出生に少なからず影響を及ぼすことでしょう。加えて、市区町村によっては今春以降の妊娠届が減っているという報告がされています。他方で、死亡数は従来予測に反しあまり増えていません。そもそも人口の高齢化はコロナ禍でも確実に進行しているので、死亡率がこれまでと同じであれば死亡数は増えていくのが必然です。さらに、志村けんさんや岡江久美子さん(ご主人は福井県出身の大和田獏さんでしたね)などの著名人をはじめ新型コロナ感染が直接死因である累計死亡者数、ならびに女性の自殺者数の増加等の報道を目の当たりにしているので、今年に入ってからの死亡数が増えているような錯覚に陥っても不思議ではありません。しかしながら実際には、インフルエンザによる死亡者数が大幅に減少していることもあり、昨年末以降の死亡総数は推計を大きく下回っています。その結果、出生数を死亡数が上回ることで生じる人口の自然減の規模もかなり抑えられた状態になっています。それだけに、来年以降の揺り返しが危惧されることころです。
日本全体の人口動向を観測するには、さらに国際人口移動についても言及しないといけないのですが、当コラムの紙幅を考慮し、別の機会に詳しくお話しできればと思います。
最後に、コロナ後における地域人口の動向についても解説いたします。総務省統計局は今年の6月以降、コロナ禍における人口の地域間移動の状況を「住民基本台帳人口移動報告」を通じて詳報しています(http://www.stat.go.jp/data/idou/index.html)。東京都への転入者数から東京都からの転出者数を引いた転入超過数は、前年同月比でマイナスとなっています。人口の東京一極集中が小休止した状態です。東京都における転入超過数の減少は過去にも何度かみられます。直近では、リーマンショック後に大幅な減少が観測されています。逆に、福井県をはじめとする多くの県では、転出超過には変わりないものの、その規模は月ごとに縮小しています。
コロナ禍における地域間人口移動はこれまでと様相が明らかに違うのですが、それでは今後どうなるのかと問われると答えに窮するところです。拙速に私見を申し上げると、有効なワクチンが開発されるなどをきっかけとしてコロナ禍が早期に終息する場合、概ね元の人口動態に戻ると思われます。もちろん、緊急事態宣言の発令を機に突貫工事的に始まったテレワークやリモート会議や遠隔授業などは修正を加えながら定着していくとは思われますが(世界の潮流からは相当遅れた感はありますが・・・)、東京への人口集中や婚姻、出生の動向はさほど変わらないでしょう。なぜなら、今回のコロナ禍が、少なくとも日本においては多くの人びとの価値観を変えるほどには未だ影響を及ぼしていないようにみえるからです。もし今コロナ禍が去れば、Go To キャンペーンで堰を切ったように人びとは活動を再開し、電車や飛行機の混雑具合も概ね戻り、東京オリンピックもいろいろ変更はあるでしょうが何とか開催できそうです。“コロナ”は過去出来事として、“鬼滅”と並んで令和2年の流行語大賞となるでしょう。一方、コロナ禍が長期化した場合の経済的ダメージは計り知れず、給付金や補助金といった形で行われてきたこれまでの緊急避難的な公的支援では、現在の膠着状態さえ保てなくなるでしょう。今回のコロナ禍がどのような終結を迎えるのかにかかわらず、私たちには今すぐ始めなければいけないことがあると考えています。今後重ねて到来することが予想されるその他の災禍についても直視することから逃げず、将来世代に継承する価値のある“新しい日常”観のようなものを私たち一人一人が真摯に考え、コロナ後には地道に実装を進める準備をしておくことです。人と人との繋がりを大切にすることも大切だと思います。NHK連続テレビ小説「エール」の最終回で主人公・古山裕一もそう言っていたような気がします。
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