日中間関係からみた中国の人口減少の含意
佐々井 司
中国の人口が減少しているのではないか。そんな話題が今月、いくつかのメディアによって報じられました。1年以上にも亘るコロナ禍で疲弊しきっている日本の私たちには、あまり響かないニュースだったかもしれませんが、実はこれからの日中関係を考えるうえで重要な啓示となるかもしれません。
きっかけは、中国統計局が先般公表した、2020年人口センサスの結果速報です。日本経済新聞の国際部の方から電話取材が入りました。コロナ禍の影響は?今後中国の人口は?などなど1時間近くに亘る質疑応答の結果は、5月12日(水曜日)の朝刊に掲載されていますのでご興味のある方はご覧ください。
中国に限らず、人口減少が長期化する要因は低迷状態が続く出生率です。長期的な人口減少に入ってしまった国は今のところ日本だけです。次は韓国や台湾か、とみられていましたが、人口大国・中国が日本に続くとなると国際的なインパクトも大きいのではないでしょうか。他方、“国民すべてのお腹を満たす”ために計画生育のもと人口爆発の抑止を目指してきた戦後の中国にとっては、人口減少は大いなる成果でもあります。とは言え、低すぎる出生率、少なすぎる新生児数は想定外であったと思います。近年では計画生育の条件を徐々に緩和し、ついには“一人っ子”政策を事実上撤回したのにもかかわらず、出生数が増える兆候はまったくありません。当然、中国国内でも真摯な議論が続いています。
規制を撤廃したのにもかかわらず少子化に歯止めがかからない最大の要因は、急速に進む経済成長と生活水準の劇的な向上にあるとみられています。GDPでは2010年に、それまでアメリカに次ぐ2位の座を日本から奪取し、今では日本の3倍近い規模になっています。人口一人あたりのGDPではまだ、日中間に大きな開きがありますが、その差は急速に縮まっています。1990年の前後でしたが、私は中国の天津に交換留学生として1年半近く住んでいました。当時の天津での生活費は住居費・食費等を含めて年間30万円ほどで、日本の国立大学の1年間の学費とほぼ同額。お金のことはあまり気にせず中国を体感することができました。今ではどうでしょう。2000年頃までは、中国との共同研究などで必要となる諸経費は日本側が負担することが多かったように感じますが、近年では逆に中国がすべての費用を負担してくれます。今年始めにリモート会議に招聘された際は、30分ほどの参加にもかかわらず10万円相当のアメリカドルによる謝金を提示されました(現職が国家公務員であることもあり残念ながら辞退しましたが・・・)。
今日、日本に長期に在留する外国人約300万人のうち30%弱が中国国籍の方々です。リーマンショックや東日本大震災を経て紆余曲折はあるものの、コロナ前までは概ね増加傾向にありました。2013年頃から急増しているベトナム在留者の在留資格の約半数が「技能実習」であるのに対し、中国の在留者の場合は約40%が「永住者」です。日本に長期滞在している理由は多様であること示唆しています。最近では、海外で多くの死者が出るような事件・災害が多く報道される一方、国内では魅力的なイベントが多く企画・実演されるなど、海外、特に発展途上地域にわざわざ足を運ぶ機会は減っています。何でもリモートで疑似体験できることになったこともあるでしょう。この間に世界は、私たちの古い思い込みを凌駕して“豊か”になり、停滞する日本との格差はいつの間にか相当縮まっています。経済格差を誘因として海外から日本に外国人労働者を誘致することは早晩難しくなりそうです。経済力以外の日本の“魅力”とは何なのか、海外に行けない今だからこそ、落ち着いて考えてみる必要があるのではないでしょうか。
3月に参画した中国との共同研究会の席で、中国側の代表者の方が挨拶されました。“今年東京オリンピックが無事開催されることを祈念いたします。そして、北京において来年2月に開催される冬季オリンピックにも是非お越し下さい!”
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