「福井で学ぶ、福井でしか学べない経営学とは」
木野 龍太郎
ご存じの通り福井県はモノづくりの盛んな土地であり、少し前のデータだが「平成28年(2016年)経済センサス基礎調査(速報)」によれば、「産業大分類別の従業者数と割合(民営)」において最も多いのが、「製造業」の83,059名(21.9%)となっている。本学においても、看護学科、社会福祉学科を除いた全ての学科(経済学科、経営学科、生物資源学科、海洋生物資源学科)において、製造業に就職する学生の比率が最も高くなっているのが現状である。そういった点からも、本学の学生がモノづくりについて学ぶことは、自分自身の進路を考えるうえでも、大いに役立つことであるといえよう。
一方で、私が所属する経済学部・経営学科というのは、経営学部や商学部なども含めて考えれば、全国の多くの大学に存在する学部・学科である。こうした、いわば「ありふれた学部・学科」である本学の経営学科を、受験生の志望先として選んでもらえるようにするためには、この大学でしか学べない経営学とは何かについて常に模索し、それを実践して他大学との差別化を図ることで競争力を高めていく必要があろう。そのために、多くの教員が趣向を凝らした教育実践を行っている。以下では、私が行っている取り組みについてご紹介する。
私は主に「生産管理論」という科目を担当し、モノづくり企業の経営に関する講義やゼミを行っているが、モノづくりは普通の学生にとって日頃あまり触れる機会が少ないことから、どのようにして関心を持ってもらえるようにするかが大きな課題であると感じている。一方で、文系学生がイメージを持ちにくい製造業にとっては、いかにして将来の会社を支えるマネジメント人材を確保していくのかが課題となっている状況にある。福井にはモノづくりを行う優良企業が多く存在するが、いわゆるBtoBビジネスが多いことから、学生への認知度が低いという課題を抱えている。経営学を学ぶ学生がモノづくりに関心を持ち、それについて学ぶことで経営学の面白さを感じてもらうとともに、そこで学んだことをモノづくり企業において活かすことが出来れば、学問と将来の進路の両面でプラスに働くことになるといえよう。ひいては地域の活性化にもつながることにもなるわけである。
私の担当する講義やゼミでは、モノづくりの現場を見たり、話を聞いたりということを積極的に行っている。講義においては、モノづくり企業からゲスト講師をお迎えして、その会社のモノづくりに関する講義をお願いしている。それまでの講義で学んだ内容が実際にはどのように行われているのかについて、実際の話をお伺いすることで理解が深まることから、学生には非常に好評である。また企業にとっては、学生に対して直接アピール出来ることや、講義を行うにあたり自社の取り組みを改めて見直す機会になると、良い評価を頂いている。
また担当する演習(ゼミ)においても、テキストを用いた勉強に加えて、福井の企業にご協力頂いて、実際の製造現場を見学してその空気を感じることも積極的に行っている。高いシェアを持ち日本全国あるいは世界中で多くのユーザーに利用されている製品が、ここ福井の地で製造・出荷されている様子を目の前で見ることで、見学した学生には刺激になっているようである。さらに卒業研究(卒業論文)においては、企業への実態調査を課しており、企業へのアポイントやヒアリング調査などを学生自身が行うことで、「生の声」を踏まえた卒業研究に取り組んでいる。
いずれも非常に重要なことは、単なる企業のアピールということではなく、この取り組みはあくまで教育の一環であり、そのことを講師や企業の方がご理解されているという点である。ゲスト講義においては、事前に教育目標やゲスト講義の位置づけをお伝えし、当日の講義内容について入念に打ち合わせを行ったうえで、これを実施している。見学においても同様に、教育目標や見学の位置づけをお伝えし、事前の打ち合わせと下見を行ったうえで(安全にも十分に配慮したうえで)実施している。そして講義や見学終了後に学生のリアクションもお渡しして、学生の理解度をお伝えしている。
いずれも講師や企業には大きなご負担をおかけするため心苦しいところではあるが、きちんと趣旨を理解し非常に前向きにとらえてくださり、積極的に取り組んで頂いていることから、結果として学生にも非常に好評な取り組みとなっている。当然、教員にも大変な手間がかかるわけだが、それ以上の大きな教育効果が得られていることを実感しており、「実際に見て、感じて、楽しんで学ぶ経営学」につながっているのではないかと考えている。
福井には、モノづくりの経営学を学ぶうえで「最高の教材」といえる企業が多く存在し、また企業と大学とが近い関係にあることから、モノづくりをより身近に学ぶことが可能となっている。そして、大企業の事例が取り上げられることが多いこれまでの経営学とは異なり、地方都市である福井で学ぶ、福井でしか学べない経営学を学ぶことが出来る点も重要であろう。これによって、教科書的な経営学を相対化して分析・考察するとともに、実態に触れながら学ぶことで、経営学をより深く学ぶことにつながるといえる。
さらに、こうした企業に本学の卒業生がお世話になっていることも多いため、講義や見学において自分の仕事内容などもお話してもらうことで、学生が職業意識を身につけることにつながるとともに、大学時代の勉強が仕事にどのように関連しているのか、あるいは大学時代にどんな勉強や経験をしておくべきか、といったことも考えることにもつながっている。そして、これまであまり身近ではなかったモノづくりの世界で、自分の先輩が頑張っている姿を見ることで、先輩が「橋渡し役」となって将来の進路として意識することにもなろう。
言うまでもないことだが、大学は単に就職を有利にするための「就職予備校」ではなく、あくまで学問を行う機関であり、その方針から絶対に外れるべきではないと私は考える。但し、そうはいってもやはり就職は学生にとって重要であり、就職への意識がきっかけとなり学問への関心が高まり、熱心に学問に取り組むことで結果として将来の進路につながることは、学生にとっては悪いことではないとも考えている。その両者のバランスが重要なのであろう。
福井にはこうした点を理解し、前向きに協力してくださる企業が多いことも、この取り組みを行ううえで大変有り難いことである。この場を借りてこれまでご協力くださった方々にお礼を申し上げるとともに、今後も「福井で学ぶ、福井でしか学べない経営学」を続けるために、引き続き地元企業の方々のご協力をお願いする次第である。
以上
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