5倍速、10倍速で環境変化が起こる時代の人材戦略
杉山 友城
DX(デジタルトランスフォーメーション)化への注目の高まりや働き方改革関連法の制定に加えて、コロナウイルス感染症の拡大によって「リスキリング」という言葉が広がりつつある。
DX化の加速や浸透によって、仕事そのものに求められる人材スペックは劇的に変化することが予測される。これは、今ある仕事が今後も継続して残ることが保証されない、今持っている知識や技能が使い物にならなくなる可能性を示唆している。ちなみに世界経済会議(ダボス会議)の「リスキル革命」というセッションでは「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」と報告された。
他方、働き方改革関連法の制定は、70歳までの就業機会の確保について、企業として措置を制度化する努力義務が設けられたことが特徴で、これは人口減少や少子化・高齢化に伴う労働力不足の解消に貢献するものと見られがちである。しかし、コロナウイルス感染症の拡大で「5倍速、10倍速の環境変化が起こっている」といわれる今、ベテラン社員のみならず「会社に貢献できない社員が増える、そうした社員を抱え込まなければならない」という企業リスクが拡大したとみることも可能であろう。つまり、今いる社員の現役時代を長くするだけでは、企業の成長にはつながらず、何らかの対策が企業に求められているともいえる。
この対策のひとつがリスキリングで、これまでよく耳にした「リカレント」(現在の仕事を中断し、大学等で学び直すこと)とは異なる。これは、社員に対して、いかなる環境変化があったとしても会社に貢献できる社員として、スキルや能力や知識、技能をアップデートし続ける機会を与えるという、いわば「DX化時代、雇用延長時代、コロナ禍時代の人材戦略であり能力開発、人材育成・活躍支援策」といえる。
こうした取り組みは、海外が先行しており、例えばAmazonでは非技術系(倉庫作業者)人材を技術職に移行させる「アマゾン・テクニカル・アカデミー」などを行い、2025年までに米アマゾンの社員10万人(一人当たり投資額約75万円)をリスキリングすると発表している。
Amazonのような大規模なリスキリングの取り組みを、日本の中堅中小企業が実施するには高くて数多くのハードルがあるだろう。ただ、少なくとも、できる範囲で、企業や個人がそれぞれ主体的にリスキリングに取り組むことは可能ではないだろうか。
コロナウイルス感染症の拡大は、企業にも私たちひとりひとりにも「自己変革」という、もう避けることができない課題を突き付けた。企業であれば、意欲を持って自己を高めようと努力や挑戦する社員を奨励・称賛する風土づくりから始めても良いだろうし、個人は「DX時代やコロナ禍時代に、自分自身は社員として生き残ることができるのか、今のままで会社に貢献できるのか」と自問自答することから始めてみても良いのではないだろうか。
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