イネの直播栽培がうまくいかないのは何故か? 水中で旺盛に発芽できない原因を解明 -「湛水直播栽培」による稲作の大幅な省力化へ前進

 我が国では、米生産の担い手である稲作農家の“高齢化”により、慢性的な労働力不足が問題となっています。この問題の有力な解決策として、稲作で最も労力が必要な“育苗と田植え”を省いて、直接、種もみを水田にまく「直播栽培」の普及が検討されてきました。直播栽培は、田植えを手作業で行う発展途上国においても、注目を集めています。しかし、世界の多くの地域で栽培される良食味・高収量品種は、水中で発芽する能力が乏しく、直播栽培の広範な普及には至っていません。

 福井県立大学 生物資源学科 深尾 武司 教授と大学院生の平野 羽留さんは、イネが水中で旺盛に発芽できない原因を解明し、植物科学の国際誌 「Plants」で公表しました。

 今回の研究成果により、「コシヒカリ」や「いちほまれ」といった良食味・高収量品種の冠水発芽能力を強化し、直播での栽培を可能とする新品種開発への道が開かれました。直播用品種が普及すれば、我が国が慢性的に抱えている稲作農家の労働力不足を解決する決定打となりえると期待されます。

 1.成果のポイント

〇  稲作農家の高齢化により、米生産のための労働力不足が深刻化。

〇  省力化のため直播栽培の普及が検討されてきたが、日本を含めたアジア品種は、田植えで育てることを前提として開発されてきたので、水中で発芽する能力に乏しく、直播しても苗になる前に枯れてしまう。

〇 これまでの研究では、水中で旺盛に発芽できる品種が、なぜ発芽できるのかを研究することが主流。しかし、直播栽培が可能な品種の開発には至っていない。

〇 今回の研究では、水中で旺盛に発芽できない品種が、なぜ発芽できないかを解析。

〇 水中で発芽する場合、種子内のデンプンは活発に分解され糖へと変換されるが、発芽できない品種は、蓄積した糖をうまく使えずに、過剰糖による自家中毒になっていることが分かった。

〇 品種改良を行うとき、どの遺伝子や生理経路を改善すれば目的の形質が得られるのか不明な場合が多い。今回の研究で、改善すべき経路が判明したため、直播可能なイネ品種の開発への道が開かれた。

 2.成果の意義

 「田植え」の風景は、日本の水田地帯において5月の風物詩ともいえるものですが、稲作の全工程で最も労力を必要とする作業でもあります。近年、我が国では、稲作農家の高齢化により、米生産の労働力不足が問題となっており、「稲作の省力化」の必要性が指摘されてきました。直播栽培は、種もみを直接水田にまく栽培法であり、「育苗」と「田植え」という重労働を省略することができます。しかし、日本をはじめとするアジア品種は、田植えで栽培することを前提として品種改良が進められてきたため、直播には不向きであることが知られています。実際、ほとんどの品種は、水中で発芽する能力が乏しく、直播しても苗になる前に枯れてしまいます。しかし、米国や豪州では直播栽培が主流であり、これらの国で使用されている品種は、水中で旺盛に発芽して苗になることができます。これまでの研究では、「水中で発芽できる品種」の原因究明に主眼がおかれていましたが、今回の研究では、「水中で発芽できない品種」に注目して、なぜ途中で発芽が止まるのかを解析しました。その結果、発芽できない品種は、種子中のデンプンが分解して起こる「急激な糖の蓄積」に耐えることができず、過剰糖による自家中毒が起こっていることが判明しました。品種改良を行うとき、どの遺伝子や生理経路を改善すれば目的の形質を得られるか分からない場合が往々にしてあります。今回の研究で、改善すべき経路が判明したので、直播可能なイネ品種の開発へ大きく前進することができました。

 3.論文情報

研究論文名    The impact of carbohydrate management on coleoptile elongation in anaerobically germinating seed of rice (Oryza sativa L.) under light and dark cycles.

著  者     深尾 武司(福井県立大学 教授)―研究代表者

                   平野 羽留(福井県立大学 大学院生(博士前期課程))

                   渡辺 雄大(福井県立大学 4年生)

                   福田 味佳(福井県立大学 研究補佐員)

掲載雑誌名    Plants

発表日   2023年4月5日

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