ナデシコ目植物の色素ベタシアニンをトレニアに作らせることで花色の改変に成功

 生物資源学部の西原教授が、公益財団法人岩手生物工学研究センター、東海大学との共同研究によりナデシコ目特有の色素を遺伝子組換え技術を用いて、観賞花きトレニアに蓄積させ、花色を改変することに成功しました。

 遺伝子組換え技術を用いて植物の花色を変える研究は古くから行われています。代表的な実用例が青いバラ、カーネーションです。最近、青いコチョウランの販売も開始されています。これらは全て主要植物色素であるアントシアニンの改変によるものですが、今回、赤い花の作出技術の確立を目指して、ナデシコ目の一部の植物にのみ特異的に存在するベタレイン1)  色素に着目し、その生合成遺伝子を発現させたトレニアを作出しました。トレニアは夏スミレとも呼ばれ、世界中で栽培されています。夏に花壇を彩る花の一つですが、遺伝子組換えしやすく、花のモデル植物の一つとなっています。ベタレインの1種であるベタシアニンの生合成に関わる遺伝子(図1)を導入したトレニアでは、もともと蓄積している紫色のアントシアニン類に加えて、赤紫色素ベタシアニンが蓄積しており、花色が赤紫色に変化しました(図2)。本手法は、将来的に赤色系の花色がない花き品目の品種改良への応用が期待されます。

【研究成果の概要】
 花や果実の色の発色に関係している植物色素は、主にフラボノイド(アントシアニンを含む)、カロテノイド、ベタレインの3種類に分類されます。そのうち、ベタレイン色素は植物ではナデシコ目(オシロイバナ、ケイトウ、マツバボタンなど)にだけに存在し、赤、黄、オレンジ等の鮮やかな色を呈します。本研究では遺伝子工学的手法を用いてベタレイン色素を観賞花きトレニアに作らせることに成功しました。3種類のベタレイン生合成酵素遺伝子(図1)を紫色のトレニア品種に導入したところ、花色が紫色から赤紫色に変化し(図2)、もともと蓄積しているアントシアニン色素に加えて2種類のベタシアニン(ベタニンとイソベタニン)の蓄積が確認されました。これまで、花きにおいて、ペチュニアやトルコギキョウでベタシアニン色素による花色改変の報告はありましたが、トレニアでは今回が初めての例です。

【今後の展望】
 ベタシアニン色素(赤紫色系)による花色の改変が可能であることが確認できたため、ベタキサンチン色素(黄色系)による花色改変手法の確立を進めています。これら色素を組み合わせることでオレンジ色等のこれまでにない新規花色の創出も可能となり、遺伝子工学的手法を用いて花色を自由にデザインする技術の開発にも繋がる成果です。

画像2    画像1
  (図1 ベタシアニンの生合成経路)        (左)遺伝子組換え体  導入元品種
  青字が導入した3遺伝子を示す。           (図2 花色改変トレニアの写真)
  遺伝子組換えトレニアでは植物全体に
  ベタシアニンが蓄積し、花色が赤紫色となった。
  
雑誌名: BMC Plant Biology 24: 614 (2024)
論文タイトル:     Flower color modification in Torenia fournieri by genetic engineering of betacyanin pigments. 
著者: 福井県立大学 西原 昌宏
公益財団法人岩手生物工学研究センター 平渕 亜紀子・手嶋 琢・上杉 祥太
東海大学 高橋 秀行
URL: https://doi.org/10.1186/s12870-024-05284-1
 本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(B)「植物色素ベタレインの種を超えたエンジニアリング基盤の構築15H04453(研究代表者:西原昌宏)」と令和5年度 ステップアップ研究支援 福井県立大学「高等植物におけるベタレイン色素のエンジニアリング」による支援を受けて行われました。

参考文献  Nishihara et al. (2023) New Phytologist 240: 1177-1188;  Saito et al. (2023) Biotechnology and Bioengineering 120: 1357-1365; Tomizawa et al. (2021) Plant Biotechnology 38: 323-330

【用語解説】
注1)ベタレイン (Betalain)
 ベタシアニン(赤紫色)とベタキサンチン(黄色)との2種類にわけられます。ベタレインを含む植物はナデシコ目に限られています。ベタレインには強い抗酸化作用や様々な薬理作用が報告されており、天然着色料として利用される赤ビーツの赤色もベタレインです。
 

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