先端セミナー(2025/6/13) "植物のクロマチン動態制御メカニズムとエピジェネティック・プライミング" 松永幸大(東京大学 新領域創成科学研究科 教授)
【生物資源学先端セミナー】
日時:025 年 6月 13 日 金曜日
16:20 ~
場所: 生物資源学部棟 1階会議室
演題1:「植物のクロマチン動態制御メカニズム
とエピジェネティック・プライミング」
講師:松永 幸大(東京大学・新領域創成科学研究科・教授)
<要旨>
細胞が分裂する際、複製したDNAは凝縮して、染色分体が二本連なった染色体となり、その後、二つの細胞に等しく分配される。染色分体が等しく分配される時、染色分体の結合部位にあるセントロメアが、紡錘糸に引っ張られて両極に移動す る。細胞分裂が終了すると、染色体は脱凝縮して細胞核が再構築される。再構築された細胞核において、分裂面から遠位領域に塊となったセントロメアの分布が変わらなければ、セントロメアが片方に偏在した細胞核になる(Rabl構造)。一方、セントロメアの偏在が解消され核膜内膜上に分散すれば、セントロメア分散型の細胞核になる(non-Rabl構造)。例えば、酵母、ショウジョウバエ、コムギなどのセントロメアの空間配置はRabl構造をとるが、ヒトやシロイヌナズナ、線虫などではnon-Rabl構造をとる。これまで、セントロメアの細胞核内における空間配置を制御する分子メカニズムは不明であった。Non-Rabl構造の核を持つシロイヌナズナの変異体を用いたイメージング研究や分子細胞生物学的研究により、non-Rabl構造の成立には、二つの分子プロセスが必要であることがわかった。偏在したセントロメアを細胞分裂後期の後に分散させる過程には、コンデンシンII(CII)とLINC(細胞骨格と核骨格をつなぐタンパク質複合体)が結合したCII-LINC複合体が関与する。その後に、分散したセントロメアを核膜内膜近傍に安定化させるために、核ラミナであるCRWNが働くことを明らかにした(参考文献1-4)。エピジェネティック・プライミングは遺伝子発現変化を伴わずに、遺伝子発現前の待機状態を創り出す潜在的な分子メカニズムである。ヌクレオソームを解きクロマチンをオープンな状態にすることで将来の遺伝子発現に備える状態を創り出す。エピジェネティック・プライミングは、幹細胞の分化や細胞のガン化の前段階や薬物中毒の進行段階に見られるが、植物再分化への関与の報告はなかった。
今回、私達はシロイヌナズナの変異体スクリーニングによって、植物のエピジェネティク・プライミング因子として、ヒストン脱メチル化酵素LYSINE-SPECIFIC DEMETHYLASE 1-LIKE 3 (LDL3)を同定した。カルス形成中に、LDL3はH3K4me2を
取り除くことで、将来のシュート誘導に備えてシュート形成遺伝子群を遺伝子発現の待機状態にする。私達の研究から、植物の再生力を支える分子機構に、エピジェネティック・プライミングが関与することがわかった(参考文献5)。
参考文献
Sakamoto, T. and Matsunaga, S. (2023).
Curr. Opin. Plant Biol., 75, 102431.
Morgato-Palacin, L. (2022) J. Cell Biol., 221, e202211043.
Sakamoto, T., et al. (2022) Nature Plants, 8, 940-953
Sakamoto, Y., et al. (2020) Nature Commun., 11, 5914.
Ishihara, H., et al. (2019) Nature Commun., 10, 1786.
今回の先端セミナーは、細胞核のダイナミクスとエピジェネティック・プライ
ミングです。松永先生にわかりすく解説していただきます。初めて聞く方も、詳
しい方も、必聴です!!
教員・院生・学部生のみなさんの来聴を歓迎します!
連絡先
福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科
TEL(0776)61-6000(代)
風間 裕介(内線3618)
ポスターはこちらのリンクからも見られます。
https://drive.google.com/file/d/1tJ-VKlSzwGRXq5DHTc2r_2STY81d2VGU/view?usp=sharing
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