イバラノリ(図1)は、日本の中部以南から琉球、台湾、フィリピンの海岸で見られる食用の紅藻類です。沖縄では郷土料理「モーイ豆腐」(図2)の材料として、能登地方では「いぎす」と呼ばれ味噌汁の具などとして古くから食べられてきました。
本学看護福祉学部、村上茂特命教授らの研究グループは今回マウスを用い、イバラノリが高脂肪食により発症する肥満、糖尿病、脂肪肝、高コレステロール血症などの生活習慣病を抑制することを明らかにしました。
イバラノリには水溶性食物繊維(カラギーナン)やポリフェノールが豊富に含まれ、これらの成分が腸管において脂肪や糖の吸収を抑制し、また肥満や糖尿病の進展に関与している酸化ストレスや炎症反応を抑制することにより、生活習慣病を予防する可能性が示されました(図3)。
本研究結果から、イバラノリは健康増進作用が期待できる食材であり、今後の活用が期待されます。本研究成果は、食品・栄養学の国際専門誌「Journal of Medicinal Food」に掲載されました。
1.成果のポイント
〇 イバラノリをエサに混ぜてマウスに3ヶ月間与えることにより、高脂肪食により発症する肥満、糖尿病、脂肪肝、高コレステロール血症などの生活習慣病が抑制された。
〇 イバラノリには水溶性食物繊維(k-カラギーナン)やポリフェノールが豊富に含まれ、これらが腸管において脂肪や糖の吸収を抑制し、また生活習慣病の進展に関与している酸化ストレスや炎症反応を抑制することにより、生活習慣病を予防することが明らかとなった。
〇 日本で郷土料理の材料として食されてきたイバラノリは、健康増進への活用が期待できる食材である。
2.成果の意義
運動不足やカロリーの過剰摂取により、肥満や糖尿病などの生活習慣病が世界的に蔓延しています。健康長寿の実現や健康寿命の延伸が叫ばれているなか、食生活を改善し生活習慣病を予防することは重要です。日本人が古くから摂取してきた海藻は低カロリーで健康維持に必要なミネラル、ビタミン、食物繊維などを豊富に含むことから、生活習慣病の予防に有効な食材と考えられます。村上特命教授らのグループはこれまでに、アカモク、エゴノリ、フノリなど食用海藻の生活習慣病予防効果を実験動物とヒトで明らかにしてきました。
イバラノリは日本の中部以南から琉球、台湾、フィリピンの海岸で見られる緑~紅色の紅藻類で、福井県から石川県の海岸にも生育しています。今回、越前海岸で採取したイバラノリの作用を肥満マウスにて検討し、肥満、糖尿病、脂肪肝、高コレステロール血症の予防効果を明らかにしました。さらにイバラノリの生活習慣病予防効果のメカニズムとして、腸管からの脂肪吸収の抑制、活性酸素による酸化ストレスや炎症の抑制が関与していることがわかりました(図3)。
イバラノリを使った有名な料理に沖縄の「モーイ豆腐」があります(図2)。これは200年前の琉球王朝時代から食べられているといわれている沖縄の郷土料理で、モーイ(イバラノリ)を豚肉、ニンジン、グリンピースなどと一緒に炒め、型に入れて固めたものです。イバラノリが生活習慣病予防効果を持つという今回の研究結果は、イバラノリがかつて長寿地域であった沖縄の健康長寿を支えていた食材の1つであることを示唆しています。海藻などの伝統食材の機能性を見直し、普段の食事に取り入れてバランスの取れた食事を摂取することは、肥満や糖尿病などの生活習慣病の予防、健康長寿の実現に重要であると考えられます。今後、健康食材としてイバラノリの有効活用が期待されます。
3.論文情報
研究論文名
Edible red seaweed Hypnea asiatica ameliorates high-fat diet-induced metabolic diseases in mice (食用紅藻類のイバラノリはマウスにおいて高脂肪食による代謝性疾患を抑制する)
著者
村上 茂 (福井県立大学 特命教授)※
平澤 ちひろ (福井県立大学 卒業生)
水谷 俊貴 (福井県立大学 卒業生)
大家 琢真 (福井県立大学 卒業生)
吉川 里奈 (福井県立大学 卒業生)
有馬 寧 (鈴鹿医療科学大学 教授)
池森 貴彦 (石川県水産総合センター、現石川県水産課)
伊藤 崇志 (福井県立大学 教授)
松﨑 千秋 (石川県立大学 講師)
※は研究代表者
掲載雑誌名 Journal of Medicinal Food
公 開 日 2023年11月7日
図3 イバラノリの生活習慣病予防効果
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