水中で発芽したイネ、酸素可視化センサで今度は「根の酸素」が見えた!
水中で発芽したイネ、酸素可視化センサで今度は「根の酸素」が見えた!
~二次元酸素イメージングで根が生まれた直後からの酸素輸送を可視化~
生物資源学部生物資源学科の塩野克宏教授、角田智詞准教授らは、新潟大学、南デンマーク大学との国際共同研究により、イネの幼苗が水中での発根直後から、根の発達に伴って酸素輸送の仕組みを変化させていく様子を連続的に捉えることに、世界で初めて成功しました。
本研究では、酸素の時空間的なイメージング技術である二次元酸素オプトード※1を用いて根の周囲の酸素分布を可視化し、根の成長に伴う酸素放出と根内部の構造の変化を調べました。研究成果は、2026年9月14日に植物・土壌科学分野の国際学術誌「Plant and Soil」のオンライン版に掲載されました。
本研究成果を紹介するため、2026年9月24日に、永平寺キャンパスで記者説明会を開催しました。塩野教授らが、根の成長と酸素放出の変化を捉えた動画や根の断面画像を用いて成果を紹介し、育苗や直播栽培、湿害対策への展開を説明しました(写真)。本研究成果と記者説明会の内容は、福井新聞および日刊県民福井で紹介されました。

写真: イネの根への酸素輸送に関する研究成果を紹介する記者説明会の様子(2026年9月24日、永平寺キャンパス)
研究内容について
1.成果のポイント
○ 2022年に「水上から取り込んだ酸素がイネの種子に届く様子」を世界で初めて可視化。今回はその続きとして、福井県立大学が得意とする酸素イメージング技術(二次元酸素オプトード※1)を用い、発根直後から根へ酸素が運ばれ、根の周囲へ酸素が放出※2される過程を可視化。
○ 根の種類によって酸素放出の始まり方が異なることを発見。多くの不定根は、生まれた直後から周囲へ酸素を放出する一方、種子根では酸素放出の開始が遅れるものがあることが明らかに。
○ 成熟した破生通気組織※3ができる前から、短い根が酸素を運ぶことを発見。根の成長に伴って破生通気組織と酸素漏出バリア※4が発達し、根の周囲への酸素放出パターンも変化。
○ 根端付近の酸素濃度が高いほど根の伸長速度も高いことを発見。直播栽培※5の改良や、洪水・湿害に強い作物の研究への応用に期待。
2.本研究について
<背景・目的> 水中や過湿土壌では酸素が不足するため、多くの植物は発芽し、根を伸ばして定着することができません。それでも、イネなどの湿生植物は過湿土壌で発芽し、葉や根を伸ばして成長することができます。私たちは2022年、イネが水面まで伸ばした子葉鞘を「シュノーケル」のように使って大気中の酸素を取り込み、種子へ届ける様子を、二次元酸素オプトード※1を用いて世界で初めて可視化しました (図1A, B; Shiono et al., Frontiers in Plant Science, 2022)。しかし、種子に届けられた酸素が、その後に伸びる根へいつ・どのように運ばれ、根の成長に影響を与えているのか?その時空間的な変化は分かっていませんでした。そこで私たちの国際研究グループは、2022年の研究の「続き」として、種子根や不定根が生まれた直後から成長する過程を連続的に観察し、根の周囲の酸素分布と根内部の構造がどのように変化するのかを追跡しました(図1C-E)。

図1. 2022年に見えた「酸素の取り込み」から、今回見えた「根への酸素輸送」へ
A. イネは酸素の少ない水中でも発芽し、内部が中空になった子葉鞘を水面に向かって伸ばします。B. 子葉鞘の先端が水面に到達すると、大気中から取り込まれた酸素が子葉鞘の内部空間を介して種子へ届けられ、種子周辺で一過的な酸素放出が起こり、酸素濃度が上昇します。私たちは2022年、この「シュノーケル効果」を二次元酸素オプトードで可視化しました(Shiono et al., Frontiers in Plant Science, 2022)。C. この先が、今回の研究になります。その後、種子から1本の種子根が伸び始めます。種子根では、発根直後に酸素放出がみられない、あるいは開始が遅れる根がありました。図1Cでは酸素放出がみられている段階を示しています。D. 続いて茎から次々と不定根が形成されます。多くの不定根において、発根直後から根の周囲に酸素が放出されることが分かりました。この時期には成熟した破生通気組織はまだ形成されておらず、細胞間隙が初期の酸素輸送に寄与すると考えられます。E. 不定根がさらに伸長すると、根の皮層に破生通気組織が、外皮に酸素漏出バリアが発達します。これに伴って酸素放出の場所も変化し、地上部からの酸素を根の先端へ効率よく運ぶ仕組みが整います。模式図のピンク色は酸素が放出される領域を、下段の画像は二次元酸素オプトードで可視化した酸素濃度分布を示します。
<結果> 二次元酸素オプトードで酸素の時空間的な変動を観察したところ、根の種類によって、酸素放出の始まり方が異なることが分かりました。最初に種子から伸びる種子根では、発根直後には酸素放出が検出されないものや、酸素放出の開始が遅れるものがみられました(図1C)。一方、その後、茎から次々に形成される不定根では、その多くが生まれた直後から根の周囲へ酸素を放出していました(図1D)。実際、発根3時間後の時点で、不定根の90%以上で酸素放出が確認されました。興味深いことに、この生まれて間もない不定根には、成熟したイネの根にみられる大きなガス空間である破生通気組織はまだ形成されていませんでした。それにもかかわらず根へ酸素が運ばれていたことから、皮層細胞の間にある細胞間隙が、発根直後の酸素輸送経路として働いている可能性が示唆されました。その後の根の成熟に伴って、発根から約15時間後には根の基部での酸素漏出バリアの形成が始まり、24時間後には破生通気組織の形成が確認されるようになりました(図1E)。この内部形態の変化に伴い、根から酸素が放出される場所も変化し、成長に伴って根内部の酸素輸送システムが段階的に整えられていくことが明らかになりました(図1Eのピンク矢頭は酸素漏出バリアが形成されている部位を示す)。また、根端付近の酸素濃度が高いほど根の伸長速度も高いことが分かりました。このことから、根端付近の酸素環境と根の成長が密接に関連していることが示されました。
<成果の意義> 国内外ではイネ栽培の省力化に向けて、直播栽培※5の普及や、苗立ちの安定化に向けた栽培技術・品種の開発が進められています。福井県では、2024年産の水稲作付面積の約1割で直播栽培が行われており(農林水産省調べ)、国内でも普及が進んでいる地域の一つです。本研究では、私たちの酸素イメージング技術を用いて、根の周囲の酸素分布を非破壊で可視化し、発芽後の根への酸素輸送の発達過程を評価できることを実証しました。直播栽培における苗立ちの安定化や品種・栽培技術の評価と改良への応用・展開が期待されます。また、近年、気候変動に伴う豪雨や洪水による冠水・湿害が大きな問題となっています。本技術や、植物が低酸素環境で根を形成し、生育を維持する仕組みに関する知見は、イネだけでなく、ソバやオオムギなど湿害に弱い作物の育種・栽培技術への応用・展開が期待されます。
【用語解説】
※1 二次元酸素オプトード・・・二次元的な酸素の濃度分布を非破壊で定量測定・可視化できる光化学センサ。酸素濃度によって酸素感受性色素の発光強度や発光寿命などが変化する性質を利用して酸素濃度を測定する。薄膜状のセンサシートからの発光をカメラなどで撮影し、画像解析することで、目に見えない酸素の分布を二次元画像として可視化できる。
※2 根からの酸素放出・・・地上部から運ばれる酸素の一部が、根から周囲の土壌や水中へ放出される現象。 湛水田のような過湿土壌では、酸素放出により植物は根の周囲を酸化し、土壌の酸化状態や土壌微生物の状態を変化させることもある。
※3 通気組織・・・植物体内で酸素などの気体の通り道となる、比較的大きなガス空間のこと。 イネの根では、一部の皮層細胞がプログラム細胞死することで比較的大きな空間である「破生通気組織」が発達する。今回の研究では、破生通気組織がまだ形成されていない発根後間もない根では、皮層細胞の間にある「細胞間隙」が初期の酸素輸送経路として働く可能性が示された。
※4 酸素漏出バリア・・・根の根元側の表皮近くの細胞層(外皮)で形成され、通気組織内を拡散で移動する酸素の根からの放出を抑制する。 疎水性ポリマーのスベリンが主要な構成成分。酸素漏出バリアがつくられることにより、成長点があり呼吸活性の高い根端までの長距離の酸素供給が可能になる。イネなどの湿生植物が低酸素環境で生育するための重要形質。
※5 直播栽培・・・育てた苗を水田へ移植する一般的な移植栽培とは異なり、水田に直接イネの種子をまく栽培法。育苗や移植作業を省けるため、省力化や低コスト化が期待されている。
論文情報・関連リンク
論文タイトル: Spatiotemporal dynamics of radial oxygen loss during rice seedling establishment in a stagnant deoxygenated agar medium
著者: Shotaro Tamaru, Nanami Fujiwara, Hinako Shiba, Tomonori Tsunoda, Ronnie N. Glud, Katsuhiro Shiono
掲載誌: Plant and Soil
DOI: https://doi.org/10.1007/s11104-026-09018-0
オンライン公開日: 2026年9月14日
○論文へのリンク
https://rdcu.be/kTykk7uPufua
○動画で見る: 種子根の酸素放出
https://drive.google.com/file/d/1BiqvKaSWLQAFB9CfXl8MvHgyEyEUf2UU/view?usp=sharing
○動画で見る: 不定根の酸素放出
https://drive.google.com/file/d/1yjo3TUfXeZtQOV6_bVJ8KbdFpNYLStuZ/view?usp=sharing
○生物資源学部 生物資源学科 環境植物学分野(塩野克宏教授)のウェブサイト
https://sites.google.com/g.fpu.ac.jp/kankyo
○プレスリリース
https://www.fpu.ac.jp/press-release/q156745.html
Contact このページのお問い合わせ先
- 地域共創部 共創・研究支援課
- 〒910-1195 福井県永平寺町松岡兼定島4-1-1
TEL : 0776-61-6018 FAX : 0776-61-6012
E-mail : kenkyu@g.fpu.ac.jp
